2021年6月2日 4 min read

量子計算によるECDSAへの攻撃方法と実現性(1)

量子計算によるECDSAへの攻撃方法と実現性(1)
Photo by Will Pantaleo / Unsplash

はじめまして、田中芳治といいます。

これまで大学・研究機関で情報技術に関わる研究をしてきました。

今回から技術コラムを書かせていただきます。

なるべく易しい解説を心がけますので、よろしくお願いいたします。

唐突ですが、皆さんは量子コンピューターというものをご存じでしょうか。

最近各国や大企業が開発を目指している次世代方式のコンピューターです。

1980年代から量子力学の原理を利用した新しい計算方式が理論的に提案され、1990年代には有効な量子計算アルゴリズムがいくつか考案されました。

1994年にアメリカの数学者ピーター・ショアが考案した量子計算のアルゴリズムは、公開鍵暗号方式に対して脅威を与えることが理論的に指摘されています。

公開鍵暗号方式は今日のセキュアな通信を支えるインフラとして利用され、民生用技術だけでなく安全保障上もとても重要であることはいうまでもありません。

いい意味でも悪い意味でも「破壊的イノベーション」ということですね。

公開鍵暗号を利用したデジタル署名は、ブロックチェーンのブロック生成プロセスにも採用されています。もし、量子コンピューターが開発されれば、暗号資産にも影響を与えることになるといわれています。

とはいえ、現時点ではまだ実現されていないので、実際に量子コンピューターが現在の暗号方式を破ったという報告はありません。

しかし、いまは安心してよいのでしょうが、これから先はどういう展開になるかは気になるところです。

時々、量子コンピューターに関係する研究がメディアで紹介されることがありますが、実際のところどうなのかという疑問はあるでしょう。

色々な情報があるとどれが正しい事実なのかがわからなくなってしまいます。

そんな先行きが不透明なときに役立つのが<理論>です。

幸いなことに、暗号技術の背景には<理論>があります。

田中のコラムでは、複数回にわけて、量子計算機が既存の暗号技術に対してどのような脅威を与えるのかを、理論面から解説します。

その上で、量子計算を行う装置を開発するのは非常に困難であるようだな、ということを直感的に理解して頂くことがねらいです。

まず、前提となる知識として「楕円曲線上の離散対数問題(ECDLP)」を簡単に解説します。

ざっくりというと、図に

R=xP

みたいな式がありますよね。これがxについての方程式だと思ってください。

R、Pに対して具体的な数値で与えられていて、式を満たすxを求める問題、これがECDLPです。

以下で、もうちょっと記号を説明します。

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