最近話題にすることも多いですが、ビットコインマイニングのエネルギー消費量が環境に悪いという主張が引き続き目立ちます。ビットコインに限らず、SEGAがNFTを発行するというツイートなどにも多数の批判的なリプライが集まるなど、環境保護活動家の関心を集めているようです。ただ今回は環境問題やエネルギーの質についてではなく、マイニングによって投入されるエネルギーのコストに注目した「ビットコインマイニングのコストは実質的に増えていない」という、一見突飛なタイトルの論文を紹介します。(このタイトルには「送金額の割合として」というオチがあります)シンプルながら、ビットコインのセキュリティを考えたり、数十年後の姿を考える上で大事な視点だったので、その意外な結果を含めてご説明します。論文:The Cost of Bitcoin Mining Has Never Really Increasedhttps://www.frontiersin.org/.../fbloc.2020.565497/full
論文の概要
ブロックチェーンにおいてマイニングは二重支払い(51%攻撃)を防ぐために存在する仕組みなので、マイニングにかかるコストは送金額に対する割合で表現できるはず、という前提から始まります。これが発想ですね。この手の分析はハッシュレートの推定分布と、各国・地域の産業用電力料金からマイニング費用を試算する場合が多いですが、この論文では消費電力量を原油相当量に換算し、そのときのブレント原油価格を用いてマイニング費用を算出しています。理由としては、地域や時期、供給者によって大きく異なる電気料金と違い、ブレント原油価格は世界標準のエネルギー価格の1つだからとしています。電気料金・原油価格どちらの場合も人件費など様々な副次的コストを無視するため、マイニング費用の下限値を求めることになります。消費電力量はハッシュレートと当時最も効率の高いマイニング機器の電気効率から求め、1バレルあたり55.5億ジュールとして原油相当量に変換し、当時のブレント原油価格でマイニング費用に換算しています。データの整理と分析の結果、以下のことがわかりました:・マイニング機器の電気効率は平均で10ヶ月ごとに2倍向上している・1日のハッシュ数は2010年9月の10^15ハッシュから2020年5月には10^25ハッシュへと10桁増(100億倍)もの成長をしている。ブレント原油価格を経由してマイニング費用に換算すると、1日3ドルから1日4百万ドルまで約100万倍の成長。
ちなみに10桁違うものの例として、1円玉と太陽の直径が挙げられます。
・ネットワークの送金額は2010年の1日1000ドルから2020年には1日10億ドルへと100万倍の成長が見られた。・試算したマイニング費用の送金額に対する比率は2010年から2020年までの期間を通して、0.02%~0.4% (平均で0.15%)という比較的狭い範囲で推移している。期間を2018年以降に限定すると平均0.3%である。いずれの数値も地域別の電気料金からマイニング費用を試算した場合の0.21%と近い値。以上のことから、マイニングによる消費金額はネットワークの送金額の0.5%前後であると推定され、また2010年から2020年に至るまで概ね安定していることがわかりました。また、冒頭で述べた「二重支払い攻撃の防止」という観点からマイニングの理論費用を求める数式に上記の結果を代入すると、送金額の1.5%が二重支払い攻撃の期待値がプラスとなる、マイニング費用から求めた下限値となります。(これはエネルギーだけの費用で、機材の調達なども含めるとはるかに高い数値になる可能性が高いですが)これらのことから、ビットコインの送金額に対してマイニング費用は意外と小さく、むしろ確実に二重支払い攻撃を防ぐのには小さすぎる可能性すらある、と著者は結論づけています。