つい一昨日、エルサルバドル政府がChivo Walletというライトニングウォレットをリリースしたところ、送金を受け取るためのインボイスにユーザーの実名が記載されていることがすぐにツイッター上で指摘されました。翌日に修正がリリースされ、以前は送金先ユーザーの実名だった部分がなぜか"Thanks Matt Ahlborg"という文章に置き換えられています。
https://twitter.com/MattAhl.../status/1435752678282481666...
Matt Ahlborg氏はビットコインでギフトカード等を購入できるサイトとして有名なBitrefillのHead of Researchで、上記のプライバシー面の問題について早期にツイートした中の1人です。また、彼は世界中のローカルなビットコイン市場、特にラテンアメリカ市場について詳しく見てきた人物でもあります。
(ラテンアメリカはライトニングネットワーク上で人口比以上の存在感を示している地域の1つです)
その彼が去年春に発表していた、ラテンアメリカ全体のP2Pビットコイン市場とベネズエラ経済の関係を示した研究を紹介させていただきます。
ちなみにChivo Walletは全体的に出来が悪いようで、「国が作ったアプリは作り込みが足りない」数多のケースの1つと言えそうです…。
https://medium.com/.../latin-american-bitcoin-trading...
ベネズエラの大停電とLOCALBITCOINS
2019年3月7日、ベネズエラの電力供給の70%を担うダムからの送電線火災によって同国は史上最大の停電に見舞われました。都市部では数日、地方では数週間も続いたこの停電の影響をLocalBitcoinsにおける取引数から見ていきます。
当時のベネズエラにおいて、LocalBitcoinsの取引はほぼビットコイン
ボリバル建て国内銀行送金のペアで、これがベネズエラ国内最大の観測可能なビットコイン取引市場だったそうです。
まず研究者たちは停電の3ヶ月前からのデータを元に、停電がなかった場合に期待された曜日・時間別の取引数を求めました。そのデータによると、通常の平日は午後4時頃に毎時900件前後のピークをつけ、土日のピークは700件・500件前後と少ない傾向がありました。(チャート等は上のリンクを辿って元記事からご覧ください)
この予測値と停電の週の実測値を比較すると、停電が起きた時間に取引数が急減し、停電翌日は平時比90%減、翌々日は75%減というように停電後数日にわたり大きく落ち込んでいました。また、Netblocksが計測したインターネットの接続状況と取引数がほぼ比例していることも見て取ることができます。
ラテンアメリカ全体への波及
停電が起こり、インターネットに障害が生じ、LocalBitcoinsどころではなくなったという現象が予想されるので、ここまでのデータは予想通りです。ところが、同じ期間の他のラテンアメリカ諸国でのLocalBitcoinsの取引数を確認すると驚くべき近似性が表れていたのです。
隣国コロンビア・ペソの取引数は通常時と比較しておよそ半減していました。ベネズエラと国境すら接していないペルー・ソルの取引数に至っては7~8割も減少しており、地理的な距離に関わらずベネズエラ国内と同程度の影響があったと推定できます。
より遠い国ではメキシコ・ペソやチリ・ペソ、アルゼンチン・ペソでの取引数もすべて、ベネズエラの大停電中のみ数割以上減少していました。さらに衝撃的なことに、米ドルでの取引数も2~3割減少していました。
中間通貨としてのビットコイン
この理由は、ビットコインがベネズエラ国内と国外を結ぶ取引の中間通貨として使われているケースがある程度存在することだと考えられます。