今月19日、Square社の提案する分散型取引所プロトコル「tbDEX」のホワイトペーパーが発表されました。特に法定通貨と仮想通貨の交換に焦点を当てたプロトコル提案であるtbDEXは分散型取引所という言葉の一般的なイメージとは異なるもので、私がP2Pfiと呼ぶ種類のDefiでした。
今日はtbDEX公式ブログの投稿とホワイトペーパーから、プロトコルの設計に込められた思想を読み解いてみます。
tbDEX whitepaper: https://tbdex.io/whitepaper.pdf
introducing tbDEX: https://tbd54566975.ghost.io/introducing-tbdex/
一般的なDEX
皆さんは分散型取引所(DEX)と聞いて何を想像するでしょうか。大半の方はイーサリアム上に無数にあるDEXを連想されるかと思いますが、古株であればLocalBitcoinsのイメージが強かったり、マニアな方はBisqなどもご存知かもしれません。
イーサリアム上のDEXはコインの交換を1つのトランザクションでトラストレスに実行するスマートコントラクトです。ブロックチェーンを介するので法定通貨そのものの交換には使えません。また、ビットコインにおいては、まだコントラクトに送金先を制限する記述ができないので同じ仕組みは実現できません。では、LocalBitcoinsやBisqは一体何なのでしょうか?
LocalBitcoinsは単純にビットコインを売りたい・買いたい人が集まるウェブサイトで、オフラインでのP2P取引を仲介するためのサービスです。国内に取引所がない国などではこの形態の取引所が今も盛んに利用されています。掲示板自体は分散化されているとはいえませんが、取引の実行自体はユーザー同士のP2Pで行われます。本質的には掲示板サイトです。
Bisqはビットコインノードを含んだ専用のソフトウェアを動かすことでより取引所に近いユーザーエクスペリエンスを実現したP2P取引プラットフォームです。指値注文は自身のデバイス上からTorを通して配信し、実際の取引はエスクローを利用してP2Pで行われます。
ただし、Bisqはガバナンストークンのようなものがあったり、信用を得るために担保が要求されるなど、分散性(の演出)やトラストレス性の追求のために過剰かもしれない複雑性があります。
まとめると、DEXはスマートコントラクトの一種というものが一般的な認識ですが、法定通貨や現物資産との交換に関しては掲示板サイトやノード上で動かすアプリケーション(とそのプロトコル)もDEXとして機能しています。この場合、ブロックチェーンを介するだけでは済まず、P2Pで取引を完結させることになります。
TBDEXの概要
tbDEXは上記の例を踏まえて例えるなら「Bisqのプロトコル部分だけを作る」提案です。さらに、プロトコル自体の機能でトラストレス性を追求することは諦め、むしろ参加者間で合意のもと社会的なトラストに基づいた判断と行動を促しています。具体的にはどういうことでしょうか。
tbDEXには直接的な参加者が3種類います。注文をするエンドユーザー、注文を受ける金融機関やユーザー(以下、金融機関)、アイデンティティーハブです。それぞれが何らかのDIDを持っており、アイデンティティーハブはDIDを持つ者同士の通信を仲介するノードだと考えて下さい。(また、DIDはここではLNのように単純に公開鍵だと考えましょう)
エンドユーザーはビットコインを売って法定通貨を買いたい、あるいは法定通貨を売ってビットコインが買いたいときに、公開鍵で指定する金融機関たちに問い合わせ、オファーの一覧を受け取ります。このオファーには特定のクレデンシャル(身分等の証明書)を条件に有利なレートを提示するものがあるかもしれません。
そこでエンドユーザーは要求されたクレデンシャルを第三者から取得し、オファーにコミットします。この段階で、スマートコントラクト(例えばオンチェーンのスクリプトアドレスやLN上のHTLC)にビットコインがロックされ、法定通貨の決済が完了した際に金融機関側がトランザクションを完了させます。
このとおり、tbDEX自体はそこまでトラストレス性を追求していません。ユーザーは金融機関側をトラストする必要がありますし、場合によっては金融機関側もユーザーをトラストします。(例えばクレジットカード決済でユーザーにビットコインを売った場合、チャージバックされないように120日間待つのか、ユーザーをトラストしてすぐ受け渡すのかなどの判断が求められる)
逆に、このようにトラストのレベルやコストを参加者間で自由に設定できる設計がtbDEXの背景にある思想を表現していると感じます。(そして自分のイメージするLN・ビットコインの将来像にも近いです)
TBDEXの背景にある思想
完全に分散した、P2Pの経済を考えます。個人、法人誰もが直接つながって、あるいは互いを経由して取引する世界です。よく考えると、間に銀行やカード会社というノードが入りがちなだけで現実もそうなっていますね。