2021年11月12日 4 min read

ほんの一握りの人たちが大量所有するビットコインは公平な貨幣にはなり得ない?

「1%の『鯨』がビットコインの9割以上を所有する」

「ビットコインは格差を拡大する。」

主流メディアや二流クリプトメディアでよく見られる主張です。彼らの主張の根拠は「ビットコインの9割以上が上位1%のアドレスに集中している」というデータで、これを基に「富の分配」という視点でビットコインは重大な欠陥を抱えると結論づけています。

本コラムでは、11月2日付のCoin Metrisのニュースレター「Revisiting the Myth of Bitcoin Ownership Concentration」を参考に、ビットコインディストリビューションの最新状況を確認するとともに、メディアの主張の真偽を検証します。

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ビットコインはネットワークローンチ以来の全トランザクションを記録する台帳がインターネット上に公開されており、トランザクション履歴やアドレス残高は誰でも無料で自由に閲覧、分析できます。この利用可能なデータ量と透明性は、ビットコインと既存金融商品を隔てる大きな特徴の一つです。

公開データによると、発行済みの1,890万BTCのうち、99%が残高上位10%のアドレス、92%が上位1%のアドレスに集中しています。

メディアはこれをそのまま引用して「ビットコインの大半を初期投資家や超富裕層などごく一部の人たちが独占的に所有する」、「株などの既存金融商品と比べて分配が不公平」などと報じるわけです。

しかし、この数字を額面通りに受け取ると実情を見誤ります。なぜなら、残高が大きいアドレスには、顧客のためにビットコインを保管する取引所、信託、カストディアンなどのものが含まれているからです。こうした事業者は数千人、いや数百万人のビットコインを1つのアドレスで管理することは珍しいことではありません。

Coin Metricsが追跡している9取引所(Bitfinex, BitMex, Binance, Bitstamp, Bittrex, Gemini, Huobi, Kraken, Poloniex)だけでも、発行済みの8%に相当する140万BTCを保有します。日本の取引所やアメリカ最大のCoibaseが含まれていないことからも、実際に取引所が保有するアドレスにあるビットコインは、この数字よりもはるかに多いと見て間違いないでしょう。

取引所以外では、ETFや投資信託の運営会社も顧客投資家に代わってビットコインを保管しています。運用資産総額が最大のGBTCは発行済みの3.5%相当の64.7万BTCを保有します。

他にも、22.5万BTCがWBTCトークンとしてEthereumエコシステムで使われており、WBTC残高を持つEthereumアドレスは4万以上あります。WBTCトークンを1:1で裏付けるビットコインの保管アドレスが「鯨」のものと誤解されている可能性は否めません。

文末チャートAはGBTCとWBTCのビットコイン残高の推移です。昨年半ばからの急増はビットコインを保有せずにエクスポージャーを得るための商品に対する需要の強さの反映であり、ビットコイン投資家の裾野の広がりと解釈することもできます。

またビットコインエコシステムにも、LiquidのようなサイドチェーンやLightningネットワーク上で提供されるカストディアルサービスがあり、運営事業者が利用者のビットコインを保管しています。

以上から、残高の大きいアドレスには、顧客に代わってビットコインを保管する事業者のものも多く含まれていることが分かります。メディアはオンチェーンデータを分析することなく、そのまま引用しているだけなので、それを根拠とする主張や、そこから導く結論の信憑性は推して知るべしです。

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ディストリビューションの偏りはビットコイン特有の事象なのでしょうか?

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