2020年8月12日 6 min read

イーサリアム供給量問題と暗号通貨の文化の重要性

イーサリアム供給量問題と暗号通貨の文化の重要性
Photo by Dylan Calluy / Unsplash

海外のツイッターでここ数日、「EthereumのEtherの正確な供給量が分からない問題」が話題に上がっています。(日本ではこれに触れている人やメディアはほとんどいない気がしますが)

これは、Pierre Rochardというビットコイン開発者が、「Ethereumの供給量、お前らどうやって調べてるんだよ?」と質問から始まり、CoinMarketCapやEtherscanなどの主要なデータサイトでもEtherの供給量が一致していないことが発覚。そしてそもそもそれらのサイトがどのようにEtherの供給量を測定しているかもブラックボックスで、イーサリアムには簡単に供給量を確認する為のオープンソースのスクリプト(コード)も存在しないことなどに対してビットコイナーから批判が巻き起こる、みたいな騒ぎでした。

そこにVitalikも参戦して、簡単に言えば「Etherの供給量は大体わかってるから問題ないだろう」と反応して、それに賛成、反対する双方がお互いを罵り合う、みたいな構図がここ数日続いています(そして実はまだこのドラマは完全に終わってないようです!)

ETHEREUMの供給量が分からないのは問題か?

さて、この一件、日本では全然注目されていないですし、イーサリアムコミュニティからはこれは一部のビットコイナーからの粗探しでしかない、という意見が大半です。

自分個人的な感想としては、確かにEtherの正確な供給量のコンセンサスがとれていない、というのは問題だとは思いますが、供給量を一発で調べるコマンドを実装してクライアントに追加すれば、この問題自体は解決するので、特にこれ自体は大事ではないと思います。

むしろこの件で浮き彫りになったのは、ビットコインとイーサリアムの明確な「文化」の違いで、むしろそちらの方が重要だと考えています。この件で言えば、供給量を調べる為のスクリプト自体を書くのはそこまで難易度は高くないはずで、今までそれを確認した人がいなかった、それを重要だと思っている人がほとんどいない、というのは技術力の違いというよりは、完全にカルチャーの問題でしょう。

クリプト世界における文化の重要性


普段我々は暗号通貨を考える上で技術や経済の話などをしたがりますし、それらが重要なのは確かに間違いないです。一方、クリプト世界におけるカルチャーというのは軽視されがちですが、ネットワークの生存確率や競争力を考える上で非常に重要な側面です。

例えば、企業文化は競争力の源泉として広く認識されており、競合との差別化やイノベーション促進などに不可欠な要素だと考えられます。あまり語られることは多く無いですが、暗号通貨においてもこれは同じで確固とした文化やアイデンティティを持っているネットワークはやはり強く、逆に言えばビットコインやイーサリアム以外でこのような強い文化を持っているコインはほとんどないですし、この二つのネットワークが大きくリードしているポイントと言えそうです。

多少バイアスはあると思いますが、自分自身が考えるビットコインコミュニティのカルチャーの特徴は、

ビットコイン

1.政府や企業などを出来るだけ信頼しない。自分で確認して、信頼を最小化する。

2.ハードマネーとしてのビットコインの重視(管理者不在、供給量が予測可能)

3.価値源泉が不確かなトークン発行やトークンの事前販売や恣意的な分配の忌避

4.セキュリティや合理性、機能性重視

5.権威や企業への反発、カウンターカルチャー

一方、対比としてのイーサリアムのカルチャーは

1.実用的な範囲で、開発者などへの多少の信頼の発生は許容

2.Move fast, break things(シリコンバレー的開発カルチャー)

3.価値の根源が不明確なトークン発行や事前販売を厭わない(イーサリアム自体がICOでスタートされている)

4.テクノロジー第一、新しいもの好き。UX重視。

5.企業や他のプロジェクトやブロックチェーンとの融和を重視


また今回の一連の騒動の後、ビットコインとイーサリアムの違いについて非常に簡潔に両者の違いを指摘したRyan Selkis(Messari CEO)のツイートがあるので紹介します。


「Bitcoin is asset-centric, and tech makes the asset work. Ethereum is tech-centric, and the asset makes the tech work」
「ビットコインはアセット(コイン)ありきで、テクノロジーでそれを実現する。イーサリアムはテクノロジーありきで、アセット(コイン)が技術を実現する」(意訳)

こう考えると、今回のSupplyGateでのビットコインコミュニティとイーサリアムコミュニティの反応の違いはむしろ納得でしょう。
ハードマネーを重視するビットコイン側からすれば、ハードマネーとして最も重要な「供給量」を誰もちゃんとチェックしていないというのは言語道断ですが、テクノロジーやアプリケーション重視のイーサリアム側からすれば、これはそこまで重要なことではなく、むしろビットコイン上で新しいアプリケーションの実装や実験が気軽に出来ない状態を批判する、というような状態になるわけです。文化の違いによって言い分は大分食い違っており、今回の供給量の話以外でもそもそも議論自体が上手く成り立たないことが多いです。

クリプト文化から考える今後への影響
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