ここ2ヶ月ほどの寄稿でビットコインのカストディアルな利用をゆるくテーマにしてきましたが、もちろんビットコインのカストディに関して一番大きな市場は取引所とカストディ専門事業者の2つです。特に、アメリカのGBTCやカナダのQBTC.U、スイスのBTCWやABTCなど、既存の金融ブローカーで取引できるビットコイン関連商品は、裏で現物を預かっているCoinbase CustodyやGeminiなどのカストディ事業者によって成り立っています。
GBTCの新規設定数の増加ペースがビットコインの新規発行と同じレベルになった今、これまで影の薄かったカストディ事業者の存在感が増しています。今回の記事では、取引所やカストディ事業者が実際に顧客に伝えているのと同数以上のビットコインを保有していることを証明する方法について触れたいと思います。
なお、取引所がカストディ事業者にコールドストレージを委託している場合もありますので、2つの業態をきれいに分けるのは難しいです。
少し長い記事ですが、ぜひ最後までお付き合いください。
カストディの現状
Glassnodeの推計では、5月時点で仮想通貨取引所に保管されているビットコインの総数はおよそ230万BTCと、2月頃のおよそ260万BTCから大きく減少しています。また、Chain.infoも主な仮想通貨取引所と、それぞれのウォレットの残高の推計を表示しています。
(※Chain.infoの情報は、BitMEXなどリストから抜けている人気事業者があるにも関わらず合計が240万BTCなので、実際に取引所に保管されている総額は300万BTC近いとも考えられます)
カストディ事業者が保管するビットコインの総額の推計はもう少し難しいものとなります。おそらく2大事業者であるGBTCとBlockFiが保有するビットコインは以下のように推定されます:
GBTC (Grayscale) - 362,000 BTC (公式発表)
BlockFi - 50,000 BTC (AUMの約半分がビットコインと推定)
計 412,000 BTC
スイスやカナダの上場商品、カストディ事業者に預けているファミリーオフィスやヘッジファンドの保有量などを加味して、カストディ事業者が保管するビットコインはこの上記の数字の2倍の824,000 BTCと推定できます。
カストディ事業者は主な顧客が金融事業者のため、プライバシーやセキュリティを向上するため、アドレスや金額等があまり公開されていません。UTXOを小さく分割することによって、簡易的な大口アドレスの監視・追跡に引っかかりにくくしている事業者がほとんどだと思われます。
そして前述の通り、既存の金融インフラ上で取引できる、ビットコインを原資産とした商品の取引が増加するとともに、カストディ事業者が持つビットコインの割合も増加していくと考えられます。
ビットコインの総量の1/6程度が保管されている取引所やカストディ事業者が、実際に存在する口座の残高やETPの口数に対応したビットコインを保有していることを証明するようになれば、透明性が増してそれらの業者への信頼感につながるのではないかと思います。
既存金融の「オフチェーンの帳簿」と「オンチェーンの帳簿」
株式会社は、株主総会を開催したり、議決権を管理したり、配当金を配るのに株主の名簿を保管する必要があります。株式会社が保管する帳簿を「オンチェーンの帳簿」と考えましょう。
上場企業の場合は、毎日株式が取引されるので、毎日株主名簿が更新されるはずです。この際、上場企業自体にある株主名簿を毎日書き換えるのでは不便なので、「オンチェーンの帳簿」は基本的には株式名簿管理人(信託銀行等)が管理し、必要に応じて最新の情報に更新することになります。
こうすると、毎日の株式の売買によって実際の株主や保有数が変わったとき、その最新の情報はどこかにある「オフチェーンの帳簿」には反映されていても、必ずしも「オンチェーンの帳簿」には反映されていません。
実際に日毎に更新される「オフチェーンの名簿」はどこに存在するのかというと、ほふり(証券保管振替機構)という機関に存在し、毎日取引終了後に証券会社からの報告を受けて最新の状態を反映します。配当権利落ち日や株主総会の案内を送付したいなど、最新の株主名簿が必要になったときには、株主名簿管理人がほふりから最新のオフチェーン名簿を取得し「オンチェーンの帳簿」が更新されます。
[株式名簿の管理の図] https://pbs.twimg.com/media/EZm2SJ2X0AA7BEl?format=png...ビットコインのカストディを行う事業者も、内部に「オフチェーンの帳簿」を持っており、それをオンチェーンに決済する能力を持っていますね。
顧客資産分の現物保有を証明するPROOF OF SOLVENCY
取引所などの事業者にビットコインを預けるとき、ユーザーは不正流出の他にも事業者自身による着服や損失のリスクを受け入れる必要があり、このリスクは透明性の低さによって高く見積もらざるを得ない側面があります。(預ける時点ですでに残高不足に陥っている可能性がある)
以前にも、毎年1月3日に取引所からビットコインを出金して「取り付け騒ぎのようなもの」を起こすことで預かり資産が十分にあるか確認するProof of Keys運動を紹介したことがありますが、その発展型としてProof of Solvencyというコンセプトがあります。これは取引所の預かり資産が取引所内の帳簿上の顧客資産以上にあると証明するというもので、論理的には3つのステップからなります:
・保有している現物の数(資産)を証明する(Proof of Reserves)
・預かり資産の総額(取引所の負債)を証明する
・資産>負債を証明する(Proof of Solvency)