ビットコインに慣れてない方にとって、ビットコインの単位は扱いが難しいです。1BTCは約1400万円相当であるため、例えば500円分を表現するとなると 約0.0000346BTC となります。

ビットコインに慣れ親しんだ方であれば「1BTC=1億sats」という表現によって、500円分は 約3460sats と表現することもできます。しかしながら、ビットコインをよく知らない多くのユーザーにとって「sats」が単位であることには違和感があります。ビットコインとは別の存在じゃないか、異なるトークンかもしれない、Lightning Network上のビットコインがsatsと呼ぶのではないかと、様々な憶測を生んでしまう点で、現状では直感的とは言えないのかもしれません。

そこで、ビットコインの基本単位を再定義するために提案されたものが「BIP177」です。

本記事では、BIP177が具体的にどのような提案なのか、誰が支持しているのか、どのような影響がありそうか、などについてまとめます。

単位が変わってもビットコインの本質は変わりませんが、人々の認知に与える影響は大きいと考えられます。アプリ等でビットコインの単位を表示する機会があれば、BIP177の状況を追うことは重要です。ぜひ、最後まで読んでいただければと思います。

BIP177の概要:最小単位を「bitcoins」「₿」と表現する提案

BIP177の全体像は「BIP 177: Redefine Bitcoin's Base Unit」にまとまっています。

BIP177は、ビットコインの基準となる単位を再定義し、小数表記を廃止して整数表記に統一するという提案です。

これまで「1BTC = 1億sat」と表現されてきましたが、「1 sat」に相当する量を「1 bitcoin」と表現します。

具体例としては下記のようになります。

  • 旧)0.0001 bitcoin
    • 新)
      • 10,000 bitcoins
      • ₿10,000
      • 0.0001 BTC
  • 旧)10.23486 bitcoin
    • 新)
      • 1,023,486,000 bitcoins
      • ₿1,023,486,000
      • 10.23486 BTC

「bitcoins」「₿」「BTC」の3通りの表現を残すというものです。「BTC」は従来通りの単位であり、「bitcoins」「₿」は現在の「sat」に相当する単位となります。

BIP177では、小数表現をなるべくなくすこと、初心者に混乱を与える「satoshi」の単位をビットコインに寄せることに重きを置いています。

BIP177の提案者は「Synonym」CEO

https://x.com/BitcoinErrorLog

John Carvalho(@BitcoinErrorLog)氏がBIP177の提案者となります。

John氏はSynonymのCEOであり、SynonymはTetherの関連プロジェクトです。

SynonymではビットコインとLNウォレットである「Bitkit」や、「Pubky」といったサービスを提供しています。後述しますが、BitkitはイベントなどでBIP177について積極的に発信しています。

BIP176(Bits単位)の否定

BIP177の1つ前のBIP176では「bits」という単位が提案されています。「1 bits = 100 sats」という単位であり、1ドルと1セントの関係に似ています。

しかしながら、新しい単位が増え、さらに0.1 bitsなどもあり得てしまう点からより複雑性が生まれてしまうと、BIP177提案者は指摘しています。

個人的にも「bits」はより複雑性が増してしまうと思います。「sat」だけでも混乱を及ぼすのに、100sat分が1bitになってしまうとなると、またまた中途半端な単位が生まれてしまいます。

また、1satの価格がかなり高まってしまった際、1bitもそれなりの金額になってしまい、結局使い勝手が悪くなってしまう可能性があります。単位は慣れのようなものなので、ビットコインの最小単位に最初から合わせてあげることで、将来的にも認識のずれや知識の塗り替えが不要になると考えられます。

BIP177の支持者と推進状況

BIP177自体は「Draft」の扱いであり、そもそもコンセンサスの変更も伴わないため、ネットワーク全体でアクティベートする対象ではありません。そのため、BIP177が提示する「bitcoins」「₿」「BTC」の単位に移行するかは各サービスやアプリ次第となります。

BIP177に前向きな投稿、またはBIP177の単位に合わせるような動きがいくつか確認できましたので、それらを共有します。

ジャック・ドーシー氏とSquare

Xポスト:https://x.com/jack/status/1924120132336418820?s=20

Block社のCEOであるジャック・ドーシー氏は2025年5月19日に「bip177」とポストを投稿しており、議論を呼び起こしました。ちなみに、BIP177の提案日は2025年4月23日であるため、提案された1ヶ月以内の投稿となります。

ジャック・ドーシー氏に賛同するような人もいれば、BIP177の単位変更にネガティブな反応を示す人もいたりと、意見としては様々です。

そして、2025年10月あたりにSquareのPOS端末でビットコイン決済が開始されました。

Xポスト:https://x.com/CompassCoffeeDC/status/1978509064540664103?s=20

写真に示されているように「₿6,153」と表示されており、BIP177に沿った表記となっています。Squareの決済において、ジャック・ドーシー氏の思想が反映されていると考えられます。

ブロック社(Block, Inc.)のビットコイン関連の取り組みについては下記記事をご参考ください。

米ブロック社(Block, Inc.)の戦略|ビットコインを「日常的に使える通貨」へとする挑戦
ジャック・ドーシー率いる米ブロック社(Block, Inc.)のビットコイン戦略を徹底解説。主力サービスCash AppやSquareを用いたビットコイン決済普及活動、マイニングやハードウェアウォレット開発まで担うエコシステムの全貌とは。

その他ライトニングウォレット系サービス

Xポスト:https://x.com/getAlby/status/1994420071683285191?s=20

例えば、albyhubではBIP177の「₿」の表記に対応しました。一方で「sats」を好む人向けに設定で「sats」と「₿」が選べるようになっているようです。

Xポスト:https://x.com/bitkitwallet/status/1990822809820664182?s=20

また、ウォレットである「Bitkit」はイベントでBIP177の重要性を発信しています。BIP177の提案者はSynonymのCEOであり、「Bitkit」はSynonymの提供サービスの1つであるため、当然と言えば当然かもしれません。

「bitcoins」「₿」「BTC」といった単位は認知の問題であり、提案者がプロダクトを通じて粘り強く認識を変えていくことが求められるのかもしれません。

Wallet of Satoshiの画面

ライトニングウォレットの「Wallet of Satoshi」でも「₿」の表記が可能となります。上図の通り、設定画面で「₿」「BTC」「sats」から選択することができます。

2025年11月に行われた「BITCOIN JAPAN 2025」のDev DayでWallet of SatoshiのCEOであるDaniel James氏が登壇しておりました。彼は何度かBIP177の話をしていたので、Wallet of Satoshiのシンプルさを追求する理念とも、「BIP177」は相性が良いのかもしれません。

様々な例を共有しましたが、現状としては「₿」「sats」が選択できるようにする形式が一般的であり、「bitcoins」は使われていない印象を持ちました。おそらく現在は過渡期であり、ユーザーが慣れてきたら「₿」「sats」の選択肢はなくなり、「₿」に一本化する流れもあり得るかもしれません。

BIP177が与える影響

water drop on body of water

過渡期における単位ミス

BIP177の提案においてもセキュリティに関する考慮事項として、留意点が記載されています。

例えば「₿100」という表記で、100satsではなく、100BTCという意味合いで請求するようなアプリなどが出てきてしまうかもしれません。

基本的に手元のライトニングウォレットで100BTCもの数量を持つことは無いかとは思いますが、明らかに不自然な金額の場合は、過渡期ではアラートを出す設計が求められるでしょう。

ただ、個人的には「₿」と「BTC」が1億倍も離れているおかげで単位による勘違いは発生しづらいのかなと思います。

例えば、Square決済で「コーヒー一杯6,153ビットコイン、高すぎる」とネタにする人もいるかもしれませんが、常識的に考えると「sats」側の表示かなと認識することができるはずです。

「₿」と「BTC」であればいいのですが、BIP176の「bits」のような表現であれば、satsと100倍差なので単位による認識ミスも発生しやすいかもしれません。だからこそ、いきなり最小単位を「bitcoins」「₿」と表現することは大胆ではありますが理に適っているのかもしれません。

アプリにおける表示の変更

これまで「sats」という単位を表示してきた事業者、例えばAlbyやWallet of Satoshiなど、「₿」「sats」で両方を選択できるようにするなどアプリのアップデートが行われています。

「sats」は「100 sats」のように数字の後に付けるのに対し、「₿」は「₿ 100」のように数字の前に付けることが一般的です。そのため、単純に「sats」を「₿」に置き換えることができないため、アプリ内における表記のアップデートが必要になる可能性があります。

まだ「₿」が必ず使用されるような認識になっているわけではありませんが、仮に「sats」の表示が減っていく場合には、頑なに「sats」のみを表示し続けるアプリは時代遅れになってしまうかもしれません。新しいユーザーにとって「sats」が混乱の元となってしまう恐れもあります。

「sats」が使われなくなることによるミームの移行

その他に与える影響があるとすれば「Stacking Sats」といった「sats」が使われるミーム用語です。今ビットコインに関わっている人であれば「Stacking Sats」は通じるかと思いますが、いずれ「sats」が使われなくなった場合にはミームが通じなくなる可能性があります。

そこまで大きな影響ではありませんが、一部合言葉のように使われてきた「Stacking Sats」や「stay humble. stack sats」のような言葉が使われなくなる可能性もあると考えると、少し悲しいかもしれません。「stack bitcoins」と置き換わるのか、「stack sats」が継続利用されて今の時代の人にのみ通じる言葉となるのか、今後の認識がどう変わっていくかが興味深いです。

まとめ:BIP177の「₿」は徐々に採用されつつある

BIP177の概要と提案者、支持者や実際に適用されているアプリについてご紹介しました。

BIP177は「bitcoins」「₿」「BTC」の3通りの単位でビットコインを表現するというものであり、従来の「satoshi」「sat」などの単位ではなく、より統一感ある単位を使用する提案です。

「bitcoins」「₿」「BTC」を使用することで、「BTC」以外は整数で表現され、小数表現がなくなります。新規ユーザーに対しても、なぜ「satoshi」「sat」という単位かといった背景説明も不要となり、より直感的にビットコインを扱えるようになるかもしれません。

BIP177の提案について、ジャック・ドーシー氏を始めとしてライトニング関連アプリは比較的前向きに捉えている印象です。実際にアプリケーションに「₿」の表示を組み込む事例も増えつつあります。一方で、ユーザーの中には「単位の勘違いが起きるのではないか」「satを使い続けたい」「混乱を招くだけなのでこんな提案はいらない」といった強めな反対意見もあります。

筆者の個人的な見解として、単位はビットコインのUX全体に関わってくるかと思います。UXがシンプルなほどビットコインが色んな人に使われやすくなると考えると、BIP177の提案に沿っていく流れは良いのではないかと思います。

今思えば「sat」「satoshi」も最初は違和感があったかもしれませんが、自然に使われるようになって人々の認識を変えていきました。Squareを始めとしたライトニング関連のメジャーサービスが「₿」表記を押し出していくなら、人々の認識もおそらく変わっていくのではないかと考えられます。