ビットコインに頭打ち感が漂う中、マイニング企業の株式が堅調な推移を続けています。ETFの話題で上がり下がりを繰り返し、どこにも動けないビットコインはサヨナラし、今こそ輝けるマイニング株へと資金を移動すべきなのでしょうか?それとも、美しい花には、やはりトゲがあるのでしょうか?
19世紀中盤のゴールドラッシュで金を掘るよりも頑丈なジーンズを採掘社へ提供し、祖業の基盤としたジーンズ屋「リーバイス」の話は、常にビジネス書でも引き合いに出されます。私たちは金を目指すべきなのか?それとも世の中が熱中する金堀にツールを提供する側に付くべきなのか?少し考えてみましょう。
2023年は年始から絶好調なマイニング株
まずは現状を把握しておきましょう。下チャート内に黄色でハイライトされた①列が、年初からの騰落率となります。
マイニング株だけだと分かりづらいので、みんな大好きNVDAと、ビットコイン事実上ETF株のMSTRを差し込んでいます。
確かにこれをみると、56%の上昇率であるビットコイン現物よりも、200%上昇率を超えるマイニング株の方が遙かに稼げていますね。
ただ52週騰落率(図中②)を見ると、少し違った事情が見えてきます。IREN, MARA, BITF あたりは、ようやく52週でトントン。250%上昇でぶっちぎりのNVDAとは比較にもなりません。
さらに直近1ヶ月騰落率(図中③)を見てみると、これまた激しいですね。有名どころのRIOTなどは40%近い下落率。10%下げのビットコインよりも激しい値下がりを見せています。
まとめてみると、マイニング関連株はビットコインにレバレッジを賭けた動きになっていますね。いったい、この激しさはどこからくるのでしょう?これはマイニング株の収益構造を考えると分かりやすいです。
マイニング株の値動きがビットコインよりも荒くなる理由
マイニング(採掘)会社は、専用の採掘機器を調達し、通電して動かし、採掘されたビットコインを市場で売却して利益を確保しています。
当然、採掘には固定費が発生します。マシンを設置する建物の賃料・採掘機の減価償却費(しばしば曖昧にされる)・人件費・税金など。これらは採掘機を止めていても関係なく垂れ流し続けるコストとなります。
一方、マイニング機器を動かすためには電気代もかかります。こちらは「動かした分だけ」発生する、いわゆる変動費となります。
ではここで、固定費が毎月100発生する採掘会社があったとしましょう。同社のビットコイン採掘能力は毎月10ビットコイン。そして10ビットコインの採掘にかかる変動費は5だったとします。
以下、ビットコイン価格ごとのマイニング会社の売り上げ粗利を計算してみました。
① ビットコイン価格=15
売上:採掘数10×ビットコイン価格15=150
原価:固定費100+変動費5=105
粗利:150-105=45
② ビットコイン価格=30
売上:採掘数10×ビットコイン価格30=300
原価:固定費100+変動費5=105
粗利:300-105=195
下線部分の粗利に注目してみてください。①と②とでビットコイン価格は100%上昇となっているのに対して、ビットコイン採掘会社の粗利は45→195へと433%の上昇です。
- ビットコイン価格上昇率 → 100%
- マイニング会社の粗利額上昇率 → 433%
さてビットコインとマイニング株の騰落率、どちらが大きく振れるでしょう?そりゃマイニング株ですよね。
現実的にビットコイン価格が2倍になって変動費が変わらずなんてあり得ない訳ですが、それでもマイニング株の値動きがビットコインよりも荒くなる理由は、感覚的に把握していただけたのではないでしょうか?
マイニング株の値上がりは期待先行型である
ではふたたび、今のビットコイン株の動きを確認してみましょう。
冒頭で提示した同じ会社群を年間収益額でランキングしてみます。下図で黄色にハイライトされた部分が各社の直近1年間の利益です。
あれあれ?ビットコインの採掘会社は、すべて赤字です。利益が出ていないものですから、当然配当もなし。これを普通にバイアスを外してみれば、なにか危ういビジネス構造なのだなと考える投資家がほとんどではないでしょうか?
さらに2024年にはビットコインが半減期を迎えます。ある日を境に採掘できるビットコインの数が一気に半分に減ることが確定をしているのです。別名、売上半減期。逆風ですね。
もう一つ逆風があるとすれば、SECが熱心に導入を拒んでいる現物ビットコインETFの存在があります。今はビットコインに直接投資できない会社・ファンドなどが仕方なく買っているマイニング株なども、現物ETFが認可されれば一定の資金は抜かれることになるでしょう。
最後に、人の心は移ろいやすいものです。今はMSTR社やマイニング株がビットコインと相関する動きを見せていますが、別の会社が突如出てきて、そのポジショニングをかっさらってしまうこともあります。
過去にはオンライン販売で世界初のBitcoin決済を導入したOverStockがビットコイン価格との相関でもてはやされましたが、MSTRが出てきてその動きは消えてしまいました。
マイニング株の実体で見えたように、私たちの目の前で「相関」のような顔をしているロジックも、実は中身は期待でしかないことがあります。
このあたり、虚業も含めて相場と言えばそれまでな話でもあります。上手に距離をとって付き合うことは、何を取引するときでも大切なことかもしれませんね。
まとめ
当記事では、マイニング株の価格動向がビットコインの価格変動よりも激しい理由を分析しつつ、マイニング会社の株価が期待先行で動いている点についても少し考慮をしてみました。
以上、参考になりましたら幸いです。それでは今週はこの辺で。ハッピー・ビットコイン!
ココスタ
佐々木徹