弊社AndGoはいわゆるハードウェアウォレットに類するデバイスを製造しているのですが、最近困ったことに主要部品であるマイコンとよばれる半導体チップが手に入らない問題に出くわしました。替えの効かない大事なものが入手待ち1年ですといわれ、世界中探しても本当に在庫がないんです。ゲーム機のPS5が品薄なのは半導体不足が原因だよ、と小耳に挟んではいましたが、まさか自分事になるとは思ってもいませんでしたので衝撃でした。
今回は、この半導体不足問題について取り上げてみようと思います。意外なほど皆さんにとっても身近な問題になっているようです。
何が起きているか
昨年後半くらいから世界的に様々な分野で半導体不足が叫ばれるようになりました。例えば、
- ゲーム機 → SonyのPS5が常に品薄
- モバイル機器 → Appleの次世代製品がなかなか発表されない
- ビットコイン → マイニング装置が手に入らない
といったことが半導体不足を理由に起きているようです。
ここ1ヶ月のニュースでも、
- 「ホンダ、新車納期1年超えも 半導体不足が販売にも影」日本経済新聞 2021年9月19日
- 「半導体不足 酸素濃縮装置にも影響」NHK 2021年9月6日
といった見出しが並びます。
医療機器の問題はコロナ禍で暮らす私たちにとっても大変気になる問題ですね。
2021年3月とちょっと古い記事ですが、各半導体メーカーにおけるリードタイムが一覧になっていました。
https://www.cnx-software.com/.../semiconductors-lead.../
製品ごとに実際はずれるものですが、こう一覧になっていると深刻さが伝わってくるかと思います。
なぜこうなったか
1つには半導体製造に関する構造的な問題が一因にあります。
半導体生産というのは、規模の経済性がとてもある分野で、生産量や生産規模を高めることで単位あたりのコストが低減されます。
大規模な市場のあるデータセンター、スマートフォンなどのニーズに支えられる形で、現在の半導体生産技術はとんでもなく先鋭化し大規模化しました。
そのため、がっつり工場に投資、工場が稼働、製品としてのチップが出荷される、までの一連のフローが数年単位のサイクルで回ります。
常に先読みをした投資と最先端の製造プロセスを追求する必要があり、日経の記事によると、TSMC等主要10社の2021年度設備投資額は前年度比3割増の12兆円にのぼるそうです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07DT10X00C21A9000000/
さて、こんな感じで小回りが利かない構造なのですが、電気自動車の台頭など半導体を欲する製品カテゴリーは増加の一途を辿っています。そこにコロナ禍という追い打ちも被さり、思うように製造できないことも一因として加わりました。
その他にも、
- 米国のHuawei制裁が引き金になり、中国企業が余剰在庫の確保に走っている
- 2021年2月テキサス州を大寒波が襲い大規模停電が発生、複数の企業の工場が被害を受ける
- 2021年3月 日本のルネサスエレクトロニクスで火災が発生、被害を受ける
- 台湾が過去57年で最もひどい干ばつに襲われ、半導体製造に必要な水が不足している
といった様々な関連ニュースも報道されていますね。
これらの結果、めちゃくちゃ半導体不足になっている、ということのようです。
また、ちょっと違った要因としてストライキがあげられます。主要マイコンメーカーのSTMicroelectronics社においては、昨年末にフランスの工場で大規模ストライキが5週間ほど実施されたとのことです。
https://www.eenewseurope.com/.../strike-calls-continue...
工場は一度止まってしまうと再稼働させるのにも時間がかかります。そのため、こちらだけでも1年以上影響のある話だったりします。
ST社のチップは医療機器、家電から金融まで様々な分野で利用されており、このストライキの影響範囲はとても大きいです。
ビットコインへの影響
実は、Ledger Nano SやTrezorなど主要ハードウェアウォレットもST社のチップを利用しています。
過去コラム 【2021/05/26】Trezor Oneの電子回路基板
でも触れていますね。
在庫のはけた来年あたりにこれらのハードウェアウォレットも品不足になるかも知れませんね。
また、最近ビットコインの世界ではラズベリーパイを使ってフルノードを自宅で建てるブームが起きています。
こうしたホビーで使われるラズベリーパイですが、こちらも最近までは店舗、問屋に在庫があったようですが9月に入ってあからさまに在庫切れが目立ち始めました。
どうやらここにも影響が出てきたようです。