2021年8月19日 5 min read

「NFTで印鑑」はどうしてイケてないのか

今週、印鑑のシャチハタが出したプレスリリースが話題になりました。「日本初!NFTを活用した電子印鑑を共同開発」と題されたリリースには、以下のような言葉もありました。

押印された印影から押印者を証明するだけでなく、従来の電子印鑑が抱えていた印影の偽造リスクの問題を、ブロックチェーンの特徴である改ざん耐性を活用して解決します。

一般的なツイッターでの反応は冷ややかで、自分も「何言ってるんだ」という反応でしたが、NFTで盛り上がっている界隈からは絶賛する声も多く見られました。

今日はNFTで印鑑というアイデアの欠点をたくさん指摘していきます。

プレスリリース:https://www.shachihata.co.jp/pressrelease/2021/nft_stamp.php

印鑑の役割を考える

印鑑は、所有者本人の意思確認や承認の証拠として使用されます。印鑑の場合は押印や捺印、印影という言葉がありますが、世界的には署名すること、署名が同等の機能を果たしており、また電子署名という技術ともその名の通り共通点が多いです。

ちなみに電子署名のほかに、電子署名を用いた電子印鑑サービスというものもあるようです。これは電子署名に含むこととします。ちなみに印影を画像ファイルにしただけのものも一般的に電子印鑑と呼ぶのが事態をややこしくしています。

さて、みなさんは押印と捺印の違いをご存知でしょうか。自分も最近知りましたが、「記名押印」は印刷や代筆された氏名の横に印鑑を押すこと、「署名捺印」は自筆した氏名の横に印鑑を押すことのようです。証拠能力が低い順に記名のみ、記名押印、署名のみ、署名捺印とのことです。

誰にでも偽造できる記名には証拠としての価値が全くないことは自明なので、上記の序列の中にある記名押印<署名から、印鑑と署名では署名のほうが証拠能力が格上ということがわかります。したがって、印鑑の目的は

・署名に加えた、弱い二段階認証のようなもの (署名捺印の場合)

・署名することが難しいか、面倒な場合の意思確認の証拠 (記名押印の場合)

の2つであると整理できます。

また追加で、本来それでいいのかと疑問に思いますが、印鑑は代理で押すことができる(権限を移譲できる) という特徴があります。これと印影の特徴的な見た目を、印鑑独特の機能要件として頭の片隅に置いておきましょう。

NFT印鑑サービスの概要

プレスリリースからサービスの目的を引用します。

電子契約では、書類に印影が表示されないサービスが多く、書類が締結済みか分からないというデジタル時代特有の悩みが生じており、押印の痕跡が一目で分かる“見読性”を備えるとともに、押印者の本人性を証明する機能を備えた「デジタル時代の新たな印影(印鑑)」のニーズが高まっています。

印鑑文化圏の外では解決済みなようですが、どのようにNFT印鑑を使用すれば解決できるとしているのか見ていきます。

まず、NFT印鑑が押印された電子文書には印鑑所有者の情報とNFT化された印影(実在しない印鑑の印影) の情報が刻印され、押印の記録がブロックチェーンに残るそうです。明確には書いてありませんが、電子署名を用いた電子印鑑サービスに統合されると解釈しました。

また、このサービスが使用するブロックチェーンはJCBIが運営管理するコンソーシアムチェーンだそうです。また、さまざまな電子契約システムで共通して利用可能なNFT印鑑API連携サービスが提供予定だそうです。

まとめると:

・押印された電子文書には印鑑所有者の情報と印影が表示される

・印影は実在しない印鑑のもの

・押印の記録がブロックチェーンに残る

・API連携によって外部サービスからも利用可能にする予定

機能の評価

まず、NFT印鑑と称されるこのサービスの本質は、印影と押印者情報をコンソーシアムチェーンを使って保管・配信してもらえる電子署名サービスです。先程の印鑑の目的に照らし合わせると、

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