2021年10月15日 6 min read

変革期を迎えたマイニング

変革期を迎えたマイニング
Photo by Aaron Burden / Unsplash

今週、Cambridge Center for Alternative Financeがビットコインマイニングの最新データを公開しました。去年から進行中のハッシュレートの北米シフトが今年5月の中国バンを機に加速し、ついに長年ハッシュレートのマジョリティを維持してきた中国を抜き、アメリカがシェア35%で世界トップに躍り出ました。2位はカザフスタンの18%、3位はロシアの11%でした。2020年に65%、今年4月に45%だった中国は一気に0%に。中国の0%には異論もありますが、ビットコインFUDの定番の一つ、中国によるマイニング支配を葬り去るには十分なデータではないでしょうか。

以下は今年4月から8月までのハッシュレートシェア推移をビジュアライズしたものです。

https://twitter.com/i/status/1448215125769531393

また、先月にはNYDIGが”Bitcoin Net Zero”という70ページにもなるマイニングに関するレポートを公開しています。アメリカの金融機関でのビットコインアダプションを加速させた立役者であるNYDIG創設者兼会長Ross Stevens氏と、マイニングとエネルギーについての第一人者とも言えるCastle Island VenturesパートナーのNic Carter氏の共著だけに、レポートは公開当初から話題になっています。

https://nydig.com/.../2021/09/NYDIG-Bitcoin-Net-Zero.pdf

さらに先週はアメリカでTexas Blockchain Summitというイベントが開催され、上院議員3名、下院議員2名、クリプトママことSECのHester Peirce委員長など規制当局をスピーカーやパネルに迎え、クリプトロビー団体Coin Centerやマイニング関連事業者との間でマイニングについて議論が交わされました。

テキサス州知事は以前からテキサスをアメリカのビットコイン中心地とすることを公言し、関連事業を誘致してきました。さらに州選出のTed Cruz上院議員は、インフラ法案審議でプロビットコインの姿勢を打ち出し、今イベントではマイニングとエネルギー産業に関する広範かつ深い知識を披露するなど、ビットコイナーを良い意味で驚かせました。

マイニングへの注目が俄に高まる背景には、ESG投資ブームがあります。今年5月にはElon Musk氏が膨大な電力を消費するビットコインはTeslaのエコ理念に反するとの理由から唐突にビットコイン決済を停止したりと、温暖化阻止を訴える環境保護家の間でビットコイン批判が激化しています。PoS採用のアルトコイン陣営もここぞとばかりにPoWとビットコインを叩いています。しかし、こうした批判の大半は事実誤認や理解不足に基づくものです。

本コラムでは、急速に分散化、グリーン化が進むと同時に、資源開発会社や電力会社など新たなプレーヤーの参入が相次ぐダイナミックなマイニングシーンをレビューします。

以下、特に出典記載がないデータは”Bitcoin Net Zero”からの引用になります。

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本題に入る前に前提を揃えておきましょう。

マイニングは大量の電力を使うため、発電のためにエネルギーを消費することは事実です。しかし、エネルギー消費はそもそも悪ではありません。経済成長と繁栄はエネルギー消費と強い相関関係にあります。文末上段のチャートは1965年〜2019年の世界の実質GDPとエネルギー消費量の推移、中段のチャートは各国の一人当たり実質GDPとエネルギー消費量をプロットしたものです。
馬車から自動車、洗濯板から洗濯機、火鉢や団扇からエアコンなど、新技術は常に旧技術よりも多くのエネルギーを必要とします。エネルギー消費なしに快適で安全な文明的生活を享受することはできないことを認識した上で、エネルギー効率の改善と持続可能かつ環境負荷が小さいエネルギーへの転換という課題にフォーカスすべきです。

前述のように、メディアによるビットコインの電力消費に関する記事は誤解に基づくものが少なくありません。有名なものに2017年12月のNewsweekの「Bitcoin Mining on Track to Consume All of the World's Energy by 2020(ビットコインマイニングは2020年までに地球上のエネルギーを使い果たす)」という見出しの記事があります。

https://www.newsweek.com/bitcoin-mining-track-consume...

また、今年5月のForbes記事「ビットコインの年間電力消費量はノルウェーを上回り、バングラデシュの2倍以上」のように、ビットコインの消費電力量を特定国と比較する手法も一般的です。

https://forbesjapan.com/articles/detail/41288

しかし、これは無意味なフレーミングであり、マイニングに使われるエネルギーの構成やビットコインの価値提案を考慮しない議論は不毛です。

2020年にマイニングに費やされた総電力は62TWhで、これは世界の総消費電力の0.04%に相当します。ちなみにアメリカ1国の洗濯乾燥機には108TWh、冷蔵庫には630TWhが費やされました。絶対量の比較指標としているだけで、大量電力を消費する冷蔵庫をけしからんと責めているわけではありません。利用価値を認めて市場価格を支払う顧客がいる限り、その電力は無駄ではないのです。

電力は生鮮食品のようなものです。需要を上回る供給は保存がきかず(蓄電ロスが大きい)、使われずに消えて失くなる運命です。特に化石燃料より安価で環境負荷が小さい再生可能エネルギーの場合、需要変動に応じた柔軟な発電ができないため、この傾向が顕著です。2020年に発電されても使われなかった余剰電力は50,000TWhもありました。あまりに膨大で世界最大容量を誇る蓄電施設でも、その1%未満しか貯蔵できません。一方で余剰電力の0.1%を有効活用するだけで、ビットコインネットワークの総消費電力は賄えるのです。

また、電力は送電中に4〜10%が失われます。再生可能エネルギーを使った発電施設は往々にして消費地から遠い僻地にあるため、送電ロスも大きいです。場所に依存しないマイニングなら、発電所敷地内で可能なため利用効率を最大化できます。

マイニングは薄利な上に競争が熾烈です。ランニングコストの大半は電気代で、売上比で約50%と言われています。電気代削減が増益に直結するので、マイナーは世界規模で最安電力を探し求めます。買い手のつかない余剰電力は当然格安です。中国にマイナーが集中したのも、過剰建設された水力発電所が余剰電力を大量に抱えていたからです。

マイニングを介して再生可能エネルギー事業の収益構造が改善すれば、送電技術の研究開発や送電線の増設更新への投資が増え、エネルギー効率の向上、電気のない地域への電力供給が可能になります。またマイニングで投資回収期間が短縮されれば、再生可能エネルギー活用も促進されるでしょう。

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マイニングにおけるグリーンエネルギーの活用と並ぶ、もう1つのトレンドに座礁資産やフレアガスの活用があります。

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