今回は、ブロックチェーンを利用に関連したトレーサビリティについての私見です。
以前に関連した内容のお話がありました(20190228の東さん記事と杉井さんコメント欄)。
トレーサビリティというと製造業から食品など幅広いのですが、酪農製品・牛肉のトレーサビリティに特化して考察しようと思います。
私は畜産分野(特に酪農)のICTシステムの研究開発に携わる仕事もやってきました。
農家さんともお話をさせて頂く機会がありますので、生産者視点でトレーサビリティについてお話したいです。
まずはざっくり畜産の基礎知識をまとめます。
肉牛ですが、黒毛和種という牛が人気で、日本中で育てられています。
繁殖させて生まれた子牛を育て(肥育)、大きくなったら出荷します。
近年では特に温暖な西南地方の鹿児島宮崎などで和牛チャンピオンになるような牛が生産されています。
和牛は暖かい所で育てる方が飼育しやすいです。(逆に乳牛のホルスタインは涼しい方がよいです)
寒いところでは子牛が死んだり、肺炎になったりします。
酪農は少し複雑です。
酪農では、乳価がおおよそ一定なので、生産乳量が重要です。牛の生涯乳量を増やすためには、定期的に繁殖させ、泌乳させなければなりません。
例えば、発情した牛に人工授精させ、ホルスタインなどを産ませます。
ホルスタイン子牛のメスは、育成され、初回出産以降は搾乳対象牛になります。
もし、農場にすでに乳牛が多くいる場合には、わざわざ搾乳頭数を増やす必要がありません。
その場合、和牛の精子を乳牛(ホルスタインのメス)に人工授精させて交雑種(F1という)を産ませたり、胚移植で黒毛和牛を産ませ、子牛の個体販売を行う場合もあります。
これら子牛を和牛農家が買取り、肥育して出荷すれば立派なお肉になります。
図に、北海道地区(ホクレン)の子牛の個体販売価格を示しました。
酪農家が販売した子牛の価格がいくらで売れているかということで、当然ですが、農家からしてみれば、高く売れた方が良いです。
令和2年はコロナの影響があり、価格減少が見られています。
黒毛和種と比較して、F1個体価格は令和3年7月に回復していません。F1の価格帯はちょうど輸入牛肉とかぶっています。スーパーでよくみるようなアンガスビーフやオージービーフなどといったお肉との競争になってしまい、余計に価格が下がりやすいということです。
今後も厳しいでしょう。
さらに、高齢になって引退したいが後継者がいない、新規就農者が少ない、ということから人手不足が深刻です。他の1次産業と同様に、ベトナム・フィリピンなど様々なところから外国人実習生を多く受け入れています。また、機械化・省力化のためのICTシステムも多く導入されつつあります。
すべての農家が取り組まれているわけではないですが、大規模農家を中心に、法人化などの経営も行われています。
より利益の出る農業にしなければならず、様々な試みがされています。
そのような中、世界で高まる和牛人気から、日本は和牛の輸出を拡大することに活路を見出そうとしています。
しかし、輸出を拡大するということは、生産を増やさないといけません。
九州地区だけで、それができるかというと、全く足らず、全国規模での和牛増産が必要になるわけです。