皆さんは「ホビーマイニング」と聞いてどんな光景を想像しますか?

一昔前であれば家にグラフィックボード数台を用意してアルトコインをマイニングしている人がいましたが、最近でも古めのASIC(Bitmain Antminer S9など数世代前のもの)を買って冬場にヒーター代わりに稼働しているビットコイナーの姿をときどき見ます。

ただ、日本だとS9を1台稼働させるのも難しいかもしれません。まず、消費電力が1500Wほどあるため、24時間稼働させるには家の電気容量がそこそこ大きい必要があります。

例えば私が以前暮らしていた単身者向けアパートだと電気容量は20Aだったため、S9を稼働させると他にほとんど家電製品を使えないことになります。今の家は30Aなのでもう少し余裕がありますが、エアコンなどと合わせるとかなり厳しいです。

さらに騒音の問題があります。大型のASICはかなり発熱するため、冷却のために高速回転するファンが付属しています。これが非常にうるさいため、家の狭い日本では置き場所に困ります。(海外だとガレージや地下室、庭の小屋などに置かれがちなイメージです。)生活スペースに置くとしても、騒音対策の入れ物などが必要になるでしょう()。

無論、日本の電気代では収益性は期待できないでしょう。でもマイニングに参加できるってロマンがありますよね(笑)この需要に応える本格的なプチマイニング製品・Bitaxeが面白いので今日は軽く紹介します。

・ASICチップを使った電気効率、スマホ並みの消費電力

・体験だけでなく、コストパフォーマンスにもこだわりたいユーザー向け

・ソロマイニング vs マイニングプール、どっちで運用すべき?

ASICチップを使った電気効率、スマホ並みの消費電力

Bitaxeの特色はなんといっても実際にASICで使われているチップを1枚搭載したことによって少ない消費電力で(相対的に)大きなハッシュレートを実現していることです。

これまで存在した(少なくとも私が知っている程度に認知度が高かった)ホビーマイニング用の機材は「実際に産業用で使われているASIC(Antminer S9など)」か、「Nerdminer」のような汎用ハードウェアを使った非常に非効率な小型マシンの2択でした。

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Nerdminerはマイニングに関して完全に戦力外だが、かわいい

ただ、Nerdminerは性能面では存在しないも同然です。(Blockstream Jadeというハードウェアウォレットに「マイニングモード」が存在しますが、そのようなレベルのノベルティ機能です。)それに対してBitaxeはASIC側の存在でありながら、冒頭で述べたようなデメリットをすべて解消できるプロダクトなのです。

Solo Satoshi- Decentralized solo Bitcoin mining with BitAxe.
Solo Satoshi embraces the power of Bitaxe, solo mining enthusiasts can now harness Bitcoin’s potential with unparalleled efficiency. The Bitaxe series, featuring the BM1366 and BM1368 ASIC chips, delivers exceptional performance tailored for mining enthusiasts, revolutionizing the landscape of solo

Bitaxeを販売するSolo Satoshiのサイト。BTC払いだとディスカウントがある

サイズや消費電力も小型ですが、価格の面でも一番高性能なモデルが1台あたり$130(電源込み)で購入できるので、ホビーマイニングでもある程度戦力になります。(Nerdminerだとマイニングプールに接続してもおそらく報酬はもらえませんが、Bitaxeなら何satsかもらえるでしょう。)

鑑賞だけでなく、コストパフォーマンスにもこだわりたいユーザー向け

このように、Bitaxeは「マイニングの仕組みを可視化する飾り」ではなく「実際に戦力として使える小型マイニング機器」というポジショニングです。実際にどれくらい戦力になるのか計算してみましょう。

まずNerdminerですが、ASICどころかFPGAすら採用していないため、55 kH/sのハッシュレートを1.5Wの消費電力で実現する、約27,300kW/TH/sという劣悪な電気効率です。特筆すべきはその小ささと、USBバスパワーでも駆動できる小さな消費電力です。本体は一台あたり5,000円程度で購入できます。

次に安価に手に入る型落ちのASICマイナーとして定番のAntminer S9は旧式ながらも約100W/TH/sとNerdminerの27万倍もの電気効率を誇ります(ハッシュレートではなく電気効率です!)。2016年にリリースされたもので最近の機材と比べると電気効率が劣りますが、中古なら本体+電源で25,000円程度で購入できます。

一方、Bitaxeにはいくつかモデルがありますが、トップレベルのBitaxe Supra 401は今年3月にリリースされたばかりの最新鋭のASICマイナー・Antminer S21に使われているBM1368というASICチップを1枚搭載し、14Wの消費電力で600GH/sを達成します。電気効率は23W/TH/s、つまりNerdminerより120万倍、Antminer S9よりも4倍電気効率が良いのです(!)

機材 ハッシュレート 消費電力 W 電気効率 W/TH/s 価格
Nerdminer 55 kH/s 1.5W 27,300,000 5,000円
Antminer S9 13 TH/s 1300W 100 25,000円
Bitaxe 401 0.6 TH/s 14W 23 20,000円
Antminer S21 200 TH/s 3500W 17.5 600,000円

Bitaxe 401と同じチップを大量に搭載している最新鋭のASICマイナー・Antminer S21も含めて上の表にまとめました。Bitaxe 401の電気効率の良さがわかりやすいと思います。もちろんハッシュレートあたりの価格は設計的にスケールメリットがない分(ASICチップを1枚しか搭載していない分)本格的なASICには遠く及ばず、Antminer S21と同じハッシュレートを実現しようとすると10倍の費用がかかる上に電気効率も30%悪いですが、難しいことを何も考えずに動かすことができるものの中では最高性能と言えるでしょう。

ソロマイニング vs マイニングプール、どっちで運用すべき?

さて、仮にBitaxeを購入して稼働させるとしたらソロマイニングをすべきなのか、それともマイニングプールにつなぐべきなのでしょうか?個人的には両方体験したあとにソロマイニングで放置するのがおすすめです。

ホビーマイニングという目的を考えると、マイニングの仕組みに興味がある人が購入する可能性が高いプロダクトだと思います。そう考えると、マイニングプールに接続して定期的に小さな報酬を受け取る体験もしたいところです。現在のネットワーク・ハッシュレートは600 EH (600,000,000TH)なので、各ブロックごとにBitaxe 401が採掘に成功する確率はおよそ10億分の1と見積もられます。ということは、ブロックの報酬が3.5 BTC (3.5億 sats)とすると、毎ブロック0.35 satsほどの収益が期待されます。

これだと1年かけても18,000 satsほどにしかなりませんので、オンチェーンで払い出しをするプールだと手数料が非常にもったいないです。例えばBraiins Poolの手数料表によると0.005 BTC未満の引き出しには0.001 BTCの引き出し手数料、つまり100,000 satsを取ると書いてあります。つまりBitaxe 401が1台で頑張って5年経っても引き出せません(笑)

そこでOrdinals Inscriptionsの検閲で話題になったOcean Poolのようにライトニングで払い出しを行うマイニングプールの利用をおすすめします。これなら数satsでマイニングプール体験から撤退し、ソロマイニングに集中できます。実は上記のBraiins Poolもライトニングによる払い出しに対応しています!

ちなみにOceanは弱小プールなのでたまにしかブロックが見つからず、収益のボラティリティは高そうですが、理論上はどこのプールを使っても同じハッシュレートなら収益は同じです。

ソロマイニングは宝くじなので、当たる確率や期待値を計算してみましょう。

先程述べたように、Bitaxe 401が次のブロックを見つける確率は10億分の1です。仮に1半減期(210,000ブロック)の間マイニングするとして、ハッシュレートが一定という甘めの見通しだと、その期間にブロックを見つける確率はおよそ4800分の1です。その数字だけみると年末ジャンボ宝くじの2等1000万円より5倍当たりやすいのですが、それは1枚あたりの当選確率なことに注意が必要で、Bitaxe 401の価格は宝くじ67枚に相当します。しかもBitaxe 401の価格にランニングコストを加算する前の計算です。早くも暗雲が立ち込めてきました…。

ブロック報酬が3.5 BTCとすると報酬の期待値は210,000ブロックで73,000 satsほど。本体価格の1/3ほどが回収できるということで、賭けとしては残念ながら宝くじのほうがまだマシ(宝くじの返戻率47%)という水準です。電気代も490kWh使用するので日本の一般的な水準だと1万円ほどはかかるでしょうか。ポジティブに考えるなら、ビットコイン価格が3倍になれば機材代は回収できるかもしれません!

ちなみにS21を1台だとおよそ1/15の確率でブロックが見つかります(期待値は約23,000,000 sats)。4年間の消費電力は合計122.6MWhとランニングコストのほうが機材代より大きくなるので、今のままのビットコイン価格とハッシュレートだと電気代14円あたりが損益分岐点となります。

ソロマイニングをするならsolo.ckpool.orgがおすすめです。いかにもビットコイナーが作ったという感じのウェブサイトですが、その名前と裏腹にマイニングプールではありません。ASICなどのマイニング機材は直接Bitcoin Coreとやりとりするのではなく、マイニングプールのソフトウェア経由でマイニングを行うため、solo.ckpool.orgを使うことで色々自分で用意する手間が省けます。もちろん自分でプールを立ち上げてやるのも勉強になるでしょう。

自分も近々Bitaxe 401を買ってみようと思っています。