ここ1ヶ月ほど中国においてマイニング事業者への取り締まりが強化され、ビットコインのマイナーが世界中へと大移動しています。その影ではPoWを採用している (主に電力を消費したマイニングがある)他の通貨も影響を受けているのではないかと考え、調べてみることにしました。すると、通貨によって影響度合いがかなり違うものがありました。
今回はPoWを採用しているアルトコインの代表例としてイーサリアムに注目し、イーサリアムのハッシュレートの何割が中国発なのか調べました。また、今回の取り締まりによるマイナーへの影響を推定し、ビットコインの場合との違いを考察します。
ちなみに4月に新疆ウイグル自治区の大規模停電でビットコインのハッシュレートが急落した際、ライトコインのハッシュレートはあまり変化がなかったことを発見しました。しかし、今回の中国でのマイニング取締りによってライトコインも30%以上ハッシュレートが下落しています。
ASICとGPUによるマイニングの違い
ビットコインのマイニングはほぼ100%がASICと呼ばれる、電気効率を突き詰めた専用機材によって行われています。この機材はマイニング以外に使い道がないため、純粋にマイナーによるマイニングへの投資を表すものです。
一方でイーサリアムではASICによるマイニングとGPUによるマイニングが共存しています。電気代が高い環境では特にGPUよりランニングコストの安いASICが有利ですが、ProgPowやEth 2.0などマイニングに影響する変更が急遽決まる可能性のあるイーサリアムにおいて転売価値のないASICへの投資を敬遠し、転売・転用できるGPUを購入することを好むマイナーもいます。
ハッシュレートのうちどの程度がASICによるものか判断することはできませんが、一般に大規模なマイニングファームはASICを好み、小規模事業者や自宅でマイニングしているマイナーはGPUを好むとされています。
イーサのマイナーは中国国外の割合が大きい?
さて、今回のテーマで興味があるのはイーサリアムのハッシュレートのうち、どれくらいが中国発なのかです。イーサリアムのマイニングについての研究はビットコインと比べて非常に少なく、簡単に引用できる文献はありません。幸いなことに、これは2通りの分析で大雑把に推定できます。
まず1つ目は、マイニングプールの所在地にマイナーが存在すると仮定し、中国を本拠地とするマイニングプールのハッシュレートを合計する方法です。本拠地を判断する方法はウェブサイトや運営者の属性・経営体制です。
Sparkpool・F2Pool・Spiderpoolは中華系、Ethermine・Nanopoolは欧州という風にマイニングプールで分類すると、過去1年間のETHハッシュレートの分布は中国42.62%、欧州25.88%、不明・その他31.50%となります。
出典:OKCoin https://www.oklink.com/eth/pool-list
ビットコインの場合と同じく、マイニングプールとマイナーの所在地は必ずしも一致しません。例えば、上記では北米のマイニングプールがありませんが、北米にもマイナーは結構います。マイナーとプールの距離が伸びると通信の遅延により効率が低下するため、プールは世界中にいくつかのサーバーを用意し、マイナーは任意のプールの遅延が少ないサーバーに接続していると考えられます。
また、マイニングプールとは別に、ブロック内の"extraData"という欄にマイニングに成功したサーバーの位置を記載するマイナーが多いことに着目して時系列で分布を表示してみたというツイートがありました。
出典:https://twitter.com/kcimc/status/1397983111229493248
チャートが複数の区分に同じ色を再利用しているためはっきりと解読することはできませんが、Chinaがおよそ30%、中華系マイニングプールのSparkpoolがおよそ10%で、合計40%と先程のプールによる試算と似た結果になっています。(europe、europe-westやeurope-northなど、細かい分類が興味深いですが、グラフの色問題で区別できないため解読できませんでした。)
ちなみにNanopoolの出現時にeuropeまたはus-westが同量減っていることからも、Nanopoolは欧州または北米のプールだとわかりますね。同様に最近Sparkpoolが出現し、chinaが同量減っています。
さて、いずれにせよハッシュレートに占める中国の割合はビットコインと比べて10ポイント以上小さいことがわかりました。その理由として考えられる可能性がいくつかあります。