本コラムは2021/09/10付け「ビットコインが一国の法定通貨になった日 ①」の続きです。
エルサルバドルでビットコインが正式に法定通貨となった9月7日以降の主な動きとメディア報道のまとめ、それらから浮かび上がる課題や可能性を考察します。
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9月7日
日付が変わるとほぼ同時に政府公式ウォレットChivoがHuaweiのアップストアに掲載されますが、わずか数時間後に削除されます。これについて、Bukele大統領が自ら、写真を保存するサーバがダウンしたために一時的にサービスを停止したとtweetします。ウォレット初期設定時のKYC(本人確認)の一環でアップロードする写真の保存先サーバがパンクしたようですが、ビットコイナー以外は寝ているであろう時間帯と、Google PlayやApp Storeには未掲載でHuaweiユーザーしかウォレットをダウンロードできなかったことを考慮すると(エルサルバドルでのHuawei普及率が高いことは事実ですが)、サーバがダウンするほどアクセスが殺到したとは考え難いです。おそらく、官製アプリにありがちな設計や実装ミス、テストなどの準備不足が原因だと思われます。
夜が明け、いよいよビットコインが一国の法定通貨になるという興奮と喜びに浸っていたビットコイナーに冷や水を浴びせるように、53,000ドル目前まで上昇していたビットコイン価格がわずか1時間で14%も急落します(文末左上チャート)。ビットコイナーが買い支えようにも、大手取引所が軒並みダウンし、それも叶いません。
そんな中、Bukele大統領は「Buy the dip(押し目買いのチャンス)」、「FUDで絶好の買い場を与えてくれてありがとう、IMF。おかげで100万ドルも得したよ。150ビットコイン買い増して、エルサルバドルの総保有量は現在550ビットコイン。」など toxic preb のような tweet を連投してビットコイナーを喜ばせます。
このフラッシュクラッシュをWall Street Journalは「エルサルバドル、ビットコインを国家通貨とした記念日に暴落というビットコインならではの洗礼を受ける」と皮肉気味に報じました。
以下、Twitterやメディアから拾った現地情報の抜粋です。
- マクドナルド、スターバックス、ピザハットは初日からビットコイン対応
- マクドナルドはアメリカのスタートアップOpenNode、スターバックスはグアテマラのスタートアップIBEX Mercadoが提供するLightning決済サービスを利用(9/13からビットコイン対応をしたウェンディーズもIBEX Mercado)
- 政府はChivoブランドのビットコインATM200台を前日までに配備したが、不具合やドル紙幣切れで使えないマシンが相当数あった模様
- ATM利用にはKYCとしてエルサルバドルの電話番号の入力が必須
- ATMキオスクにはChivoのロゴ入りTシャツを着た政府職員が数人待機し、ATMやウォレットの使い方を市民に伝授
Chivoウォレットについて
- 利用には国が発行するID番号と、14カ国(主に南北アメリカとヨーロッパ諸国)のいずれかの電話番号が必要
- Lightningだけでなく、オンチェーンもカストディアル
- Lightningインボイスには受金者氏名が含まれる(これに対してBitrefillのMatt Ahlborg氏がプライバシー懸念を呈したところ、氏名の前にThanksを追加するという謎の改修が行われた。文末左下図)
- アプリの権限にウォレットには不要なマイクの使用や連絡先へのアクセス許可が含まれている
- オンチェーン、Lightningとも最低送金額は5ドル(後日0.01ドルに引き下げ)
- 送金手数料を受取人の受取金額から差し引く、送金金額指定のインボイスをスキャンしているのに金額のマニュアル入力を求められるなど複数のバグ報告
- ウォレット開発を受注した企業をめぐる報道の混乱
ForbesはアメリカのカストディアンBitGo、Reutersはメキシコの取引所Bitsoと報道
街中の様子
- 首都サンサルバドルでは、ビットコインとBukele政権に抗議する数百人規模のデモが開催
- ビットコインビーチことEl Zonteでは、歴史的なBitcoin Dayを祝して一世帯あたり50ドル分のビットコインが配布された
9月9日
- エルサルバドルのApp Storeの金融アプリランキングで、PayPalや国内最大銀行のアプリを抑えて、1位から6位までをビットコイン関係が独占(文末右上図)。
- CNBCが「エルサルバドルのChivoウォレットはWestern Unionに年間4億ドルの損失を与える可能性」という見出しで、海外移住した国民からの送金がGDPの23%に相当する60億ドルにもなる同国にビットコインがもたらすメリットを報道。
https://www.cnbc.com/.../el-salvador-bitcoin-move-could...
9月11日
- エルサルバドルのビットコイン法施行を祝してビットコインを買おう!という動きが盛り上がったブラジルで、国民の58%がエルサルバドルの決断を好意的に受け止めており、48%がブラジルでのビットコインの法定通貨化を支持するという調査結果が公表
https://bitcoinmagazine.com/.../brazilians-want-to-make... - アメリカでは自国でのビットコインの法定通貨採用に賛成が27%、25歳〜44歳に限れば43%が賛成という結果
https://news.bitcoin.com/61-of-us-adults-do-not-oppose.../
9月12日
- ZARAがLightning決済を導入
9月13日
- 9月7日以降、Lightningチャネルが2,000本、Lightning決済導入店舗が100件増加
https://bitcoinmagazine.com/.../lightning-network-bitcoin... - エルサルバドルが外国人投資家に対してビットコインの譲渡益課税ゼロ、給与をビットコインで受け取る場合も無税にする方向で検討中と報じたことで、世界中のビットコイナーが騒つく
https://www.coindesk.com/.../el-salvador-to-exempt.../ - Wall Street Journalが「エルサルバドルのビットコイン詐欺」という見出しで、ビットコイン法定通貨化でダラライゼーションの有効性が損なわれると報じる(そもそもダラライゼーションの悪影響を断ち切るためのビットコイン採用なので論点がズレてます。)
9月14日
ビットコインが法定通貨になってから1週間をBukele大統領が振り返り
https://twitter.com/nayibbu.../status/1437625365049102337...
- Chivoウォレットのダウンロード数は50万を超えた(人口の約8%がウォレットを持ち、30ドル分のビットコインを手に入れたことになる)
- ウォレットのバグは95%改修済み
- ウォレットのバグが完全になくなるまで、アプリのダウンロードは一時停止
- 国内に配置した200台のChivoビットコインATMは正常に稼働中、アメリカにも50台を配置済み
- ビットコイン対応は外資系企業が先行していたが、ローカル資本の店舗も徐々に増加(PriceSmart、Super Selectos、Dollar City、Pollo Camperoなど。余談ですがPollo Camperoはチキン専門のファーストフードチェーンですが、すごくおいしいです。KFCが参入する隙がないほどローカルからの人気も絶大なので、エルサル訪問の際はぜひお試しください。)
- 明日以降、Chivoウォレットユーザーはエルサルバドル以外の国で発行されたクレジットカードやデビットカードを使ってチャージ可能に
- 最後にChivoウォレットの利用は強制ではないことを強調
9月15日 エルサルバドル独立記念日
- 300年間に及ぶスペイン統治から1821年に独立を勝ち取った記念日に、Bukele大統領に抗議する集団によって首都サンサルバドルのPlaza Barriosに設置されたChivo ATMキオスクが破壊、放火される(文末右下図)。
https://twitter.com/elsalvador/status/1438212111797260296...
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この2週間ほどのエルサルバドルを見てきて個人的に特に強く感じたことは2点です。