「価値を一定に保つために供給量を調整するのではなく、総供給量を予め決めておいて価値を変動させる。」 サトシ・ナカモト
ビットコインの究極の目的は「貨幣と国家の分離」です。国家が勝手に供給を増やして通貨価値を切り下げ、国民の購買力を不当に奪うことを問題視したサトシ・ナカモトは、国家に依存しない、政府や中央銀行などの特定機関が供給操作できない貨幣を設計開発しました。
誕生から12年、ビットコインは今、サトシが掲げた目標にどこまで近づいているのでしょうか?最終的に目的は達成可能なのでしょうか?
法定通貨しか知らずに生きてきた私たちは、貨幣とは国が発行するものという貨幣国定説に違和感はありません。しかし、貨幣史を振り返れば、現状がいかに例外的状況であるかが分かります。本来、貨幣とは市場の自由競争を経て貨幣適性が最も高いと評価された財であり、評価軸は以下3つです。
規模の市場性:取引規模を問わず使える、小単位に容易に分割できる可分性
場所の市場性:重量当たりの価値が高く、保管や移動が容易な可動性
期間の市場性:時間が経っても減価しない価値保全性←3つの中で最重要
石、貝殻、金などは市場性を満たしたことで貨幣に選出され、市場性を失ったことで貨幣の座を追われました。では、貨幣の世代交代を促す要因は何でしょうか?最大要因は技術革新です。手作業で行っていた石の切り出しは爆薬の発明、浜辺で拾い集めていた貝殻は大型船の登場で供給量が急増します。希少性を失った石と貝殻は「期間の市場性」が大幅に低下し、市場性で優る金銀に代替されます。19世紀に鉄道と電信の2分野で技術革新が起きると、交易圏が一気に拡大して遠隔地間の決済ニーズが高まります。すると金の移動にかかる時間とコスト、すなわち「場所の市場性」が問題になります。これを解決したのが紙幣です。金を銀行で集中管理し、金の預かり証として発行する紙幣を交換手段として代用することで、決済時の金の物理的移動を不要にしました。金本位制の誕生です。しかし、第一次世界大戦が始まると主要参戦国は戦費を紙幣増刷で賄うために金本位制を一時停止します。第二次世界大戦後、ブレトンウッズ体制に移行し、金兌換を保証する米ドルを国際準備通貨とすることで他国通貨も金とのリンクを維持しようとしますが、米国の金準備とドル供給のギャップは拡大の一途をたどり、1971年ついに金本位制は完全廃止に至ります。法定通貨制度の始まりです。