2020年1月22日 7 min read

DigixDAOの解体とDAOプロジェクト全般の矛盾とリスク

DigixDAOの解体とDAOプロジェクト全般の矛盾とリスク
Photo by Diego Marín / Unsplash

数日前Ethereumの老舗プロジェクトの一つDigixDAOが投票により解体されることが決定した、というニュースがありました。

DigixDAO Votes to Liquidate $64M Treasury
With only 52 votes, the DigixDAO treasury will dissolve, returning DGD holders their staked $ETH.

Digixは端的に言えばゴールドをイーサリアム上でトークン化し(DGXトークン)、そのトークンを利用したアプリケーションプラットフォームの構築を目指すプロジェクトでした。

少しややこしいのですが、ゴールドトークンとは別にガバナンス/投票用の「DGDトークン」というものが存在します。今回のDGDトークンによる投票で決まったのは、開発やコミュニティ活動の為に用意されていたICOで集めた資金の残り分をDGD所有者に返却し、DigixDAOは解体する、ということです。なので、正式にはゴールドをトークン化するDGXトークンはまだ存在し、引き続き開発継続していくようですが、開発資金源とコミュニティの支持もなくなりDigixのプロジェクトはこれで事実上の終了、という認識を自分はしています。

さて、今回のニュース、「DAO」と喧伝されていたDigixDAOが上手く期待に沿えず、最終的に投票により解体、という展開はDAO系のプロジェクトとしては初めてのことだと思います。今回のDigixの件以外にも、他のDAOと名がつく最近のプロジェクトは共通の問題や矛盾を抱えていることが多いと思うので、DAO系プロジェクトについて少し考えてみましょう。

そもそもDAOとは?

DAOはDecentralized Autonomous Organizationの略で、日本語だと「自律分散組織」などと呼ばれることもあります。言葉の定義もまだ明確ではなく、プロジェクトごとに微妙に定義が揺れている気がしますが、大意としては、

  1. 中央にネットワークを管理する権威、組織、個人がいない
  2. 各参加者がそれぞれのインセンティブに基づき行動することで、組織として特定の目的が自律的に達成されていく
  3. 1と2により、止めることや検閲することが難しく、動き続ける

上記のような大まかなコンセプトや理想としてここでは定義しておきます。

THE DAO事件で露呈したこと

さて、DAOというコンセプトで最も有名な事例が2016年のThe DAO事件でしょう。これに関してビットコイン研究所の方でも当時からかなり細かく考察、質問回答、フォローアップした記憶がありますが、自分が当時書いた以下のレポートなども見てみてください(一部情報が古いと思いますが当時の空気感がわかると思います)

035 The DAO事件の衝撃とEthereumの未来
035 The DAO事件の衝撃とEthereumの未来 お待たせしました。事件からちょうど1週間ほどが経っていますが、The DAO事件の概要と露呈されたEthereumの課題や今後の展望について自分の考えをまとめました。 実は事件前の時点では、The DAOの投票の仕組みのインセンティブ設計の問題点、攻撃ベクターなどについて解説し、長期的に考えてなぜ自分がThe DAOが上手く機能しない可能性が高いか、という記事を書こうと思っていたのですが、自分でも予期せない形で思ったよりずっと早くThe DAOは崩壊してしまいました。同時に自分も含め業界関係者に大きな衝撃を与え、多くの問題提…

今から振り返ると、The DAOの事件で教訓とされたこととして、

  1. 安全なコントラクトを書くのは難しい。多額の資金をコントラクトに置くのはリスクが高い。(⇒コード監査の徹底の必要性
  2. 誰も完全にコントロールできないスマートコントラクトを作ると、ハックや万一の事故があった時に対応することが出来ない(⇒結局Ethereumはこの事件に「対応」する為にメインチェーン上の記録に介入することになる)
  3. そもそもハック事件以前にThe DAOの投票スキームは機能しておらず、低い投票率、投票による意思決定は中々難しい

上記などだったと思います。

最近のDAOプロジェクトは全くDAOと呼ぶのにふさわしくない

さて、The DAOの事件でそれからしばらくDAO系のプロジェクトには全体的に冷ややかな視線が増えた空気感もありましたが、18年~19年くらいにかけてDAOを名乗るプロジェクトが増えていった気がします。MakerDAO, KyberDAO、他にもいくつか比較的著名なプロジェクトがあります。

自分の見立てでは多くのそれらのプロジェクトの共通点として、

  1. ガバナンス/投票用のトークン以外に、開発担当の株式会社や財団、初期投資家/VCなどの大きな影響を持つ組織が存在する
  2. 非常時用の「フリーズ機能」のようなものを準備している

    The DAO事件のようにハックなどがあった時にダメージを最小化するため
  3. 投票率を上げるための様々なスキームや工夫(投票者への還元、コミュニケーションの強化、等等)

上記のようなアプローチはメリットもありますが、自分は元々のDAOという概念からむしろ離れて行っていると考えています。

まず第一に、DAOの定義で「特定管理者がいない」「止められない」という性質を述べましたが、実際には最近の「DAO」プロジェクトには開発会社のCEOが存在して大きな権限を持っていたり、そもそもフリーズ機能やキルスイッチがあった場合、止められない、という性質もなく、検閲の対象になりえます。

また、もう一つの問題として新しいタイプのDAOプロジェクトを管理する投票トークンを総称して「ガバナンストークン」とか言うことがありますが、このガバナンストークンの保有の偏りがひどく、実質的に1~3人くらいの人間が全てを決定できることも多いです。Decentralizedなはずなのに全く分散化されていないということですね。(ここら辺は先日解説したEOSやDPoS系のトークンにも似たようなことを指摘出来ます)

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