「ビットコインは投資対象としてはいいけど、日常的な買い物には使いにくい」——そう感じている方は多いのではないでしょうか。実際、価格変動の激しさや決済インフラの未整備から、ビットコインの日常利用にはまだ距離があるのが現状です。
しかし今、この課題に本気で取り組む企業があります。Twitterの元創業者として知られるジャック・ドーシー率いるブロック社(Block, Inc.)です。同社はモバイルアプリCash Appや決済サービスSquareを通じて数千万人規模のユーザーを持ち、それらを活用することでビットコイン決済の実用性を高めようとしています。
決済の取り組み以外にもマイニングやハードウェアウォレット開発などビットコインに関する様々な事業を幅広く展開し、ビットコインエコシステム全体をより向上させる取り組みを行っています。
本記事では、ブロック社の概要やサービス紹介とともに、ブロック社が展開するビットコイン戦略について具体的に解説します。
ブロック社(Block, Inc.)とは:ジャック・ドーシー率いる米フィンテック企業
会社の成り立ち
ブロック社(正式名:Block, Inc.)は、もともと「Square」という社名で2009年に設立された米国のフィンテック企業です。創業者はジャック・ドーシー。Twitterの共同創業者としても知られる人物で、シリコンバレーを代表する起業家の一人です。
Squareは当初、スマートフォンに小さなカードリーダーを接続するだけでクレジットカード決済ができるサービスとして始まりました。従来、カード決済の導入には高額な端末が必要でしたが、Squareはこれを簡素化し、個人商店や屋台、フリーマーケットの出店者でも手軽にカード決済を受け付けられるようにしました。このシンプルさが支持され、米国の中小企業や個人事業主に急速に広まっていきます。
その後2021年に「Block, Inc.」 に社名変更。2025年7月にはS&P 500銘柄入りを果たすほどの成長を遂げています。
創業者ジャック・ドーシーのビットコイン観
ブロック社の創業者ジャック・ドーシーは、テック業界の中でも特にビットコインへの傾倒が強い経営者で、ビットコイナーとしても知られています。彼はビットコインを「インターネットのネイティブ通貨」と評価し、将来的には世界の単一通貨になりうると公言しています。
2021年にTwitterのCEOを退任し、その後は自らが率いるブロック社の経営により深く関わる体制になりました。公式には「会社(Twitter社)が創業者から自立して前に進むべきだ」と退任理由を説明していますが、一方で同年のビットコインカンファレンスでは「ビットコインは自分の人生で取り組むべき中で最も重要なことだ」とビットコインへのコミットを強調しています。この姿勢からTwitter CEO退任は、ビットコイン普及活動とブロック社への専念と関連づけて語られることが多くなっています。
なぜドーシーがアルトコインに関与せずビットコインだけにコミットしているのか、過去のビットコイン研究所記事で解説してましたので、興味のある方はご覧ください。
主力サービスCash AppとSquareについて
ブロック社は、個人向けのモバイルアプリCash Appと店舗向けの決済サービスSquareという二つの主力サービスを持っています。
Cash App:個人向け送金・決済アプリ

Cash Appは、個人間送金に加え、給与受取や資産運用、借入機能も備えたモバイル金融アプリです。米国で若年層を中心に普及しており、月間アクティブユーザー数は5,800万人を超えています。(Q3 2025決算書を参考)
基本機能は友人や家族への送金で、相手の電話番号やユーザー名を入力するだけで即座にお金を送れます。割り勘の精算や家賃の支払いなど、日常的な場面で利用されています。
日本でいうPayPayのような決済アプリに、口座サービスや資産運用などの金融サービスをより拡充させたサービスだとイメージしていただくといいかもしれません。
Square:企業・店舗向け決済サービス

Squareは、店舗や企業がカード決済を受け付けるためのサービスです。日本でも展開されており、小さな白いカードリーダーを見かけたことがある方もいるでしょう。スマートフォンやタブレットに接続するだけで、クレジットカードやデビットカードの決済ができます。
また、カードリーダーにとどまらず、POSレジ、売上管理、在庫管理、シフト管理、給与計算まで、店舗運営に必要な機能を一通り揃えています。飲食店、小売店、美容室、フィットネススタジオなど業種を問わず、全世界で約400万の事業者が導入しています。
ビットコイン決済普及を後押しする主力サービスでの取り組み
ブロック社は、Cash AppとSquareという2つの主力サービス内にビットコイン関連の機能を揃えており、ビットコイン決済の普及を後押ししています。
Cash Appのビットコイン機能

Cash Appでは、一般ユーザーがビットコインの保有や決済などを体験できる機能が備わっています。
ビットコインの売買
アプリ内で米ドルとビットコインを売買できます。最低1ドルから購入可能で、専門的な知識がなくても数タップで完了し、暗号資産取引所より手軽にビットコインに触れられる入り口として機能しています。2024年の決算書によると、年間約102億ドルものビットコインがこの機能を通じて売買されているとのこと。
ビットコインの送受信や決済
Cash Appユーザー同士であれば、ビットコインを手数料無料で送り合えます。また、手数料はかかりますが外部のウォレットへの送金も可能です。店舗での決済にも使うことができ、ライトニングネットワークにも対応しています。
さらに、ビットコインを保有していなくても、アプリ内米ドル残高からライトニング経由でビットコイン決済ができるというユニークな機能も追加されています。
給与のビットコイン受け取り
Cash Appには給与の直接入金機能があり、給料の一部または全部を自動的にビットコインに換える設定ができます。たとえば「給与の10%は自動でビットコインに換える」といった設定が可能で、ドルコスト平均法による購入を自動化できます。
ビットコインマップ
アプリ内でビットコイン決済を受け入れている近隣の店舗を地図上で探せる機能です。Square加盟店をはじめ、ビットコイン決済に対応した店舗の場所をアプリ上から確認することができます。
Squareのビットコイン機能

Squareでは、店舗がビットコイン決済を容易に導入できる機能と、店舗売上を自動的にビットコインに変換できる機能が備わっています。
店舗側がビットコイン決済を簡単に導入できる機能
店舗のSquare端末でビットコイン決済を受け付け、顧客はライトニングネットワーク経由で即時決済をすることができます。導入に関して、技術的な専門知識は不要で、クレジットカードや現金決済と並行して運用可能です。
この機能は2025年11月にリリースされ、現在は米国のみのサービス対応となっています。日本を含む他国への展開が期待され、全世界に約400万店舗存在するSquare加盟店への導入が進めば、ビットコイン決済の普及に大きなインパクトを与える可能性があります。
売上を自動的にビットコインに変換できる機能
1日の売上の最大50%を自動的にビットコインに変換でき、店舗が長期的な資産としてビットコインを保有したい場合に活用できます。ビットコインに強気な店舗経営者には、非常に魅力的な機能と言えるでしょう。
その他のビットコイン普及に向けた取り組み
Cash AppとSquare以外にも、ハードウェアウォレットの開発者やオープンソース開発支援などビットコイン普及に向けた様々な取り組みを行っています。
ハードウェアウォレットBitkeyの開発・販売

Bitkeyと呼ばれるビットコイン専用のセルフカストディウォレットを開発・販売しています。Bitkeyは、スマートフォンと連携して使う小型デバイスとして設計されています。
ウォレットは2-of-3のマルチシグ構成で、モバイルキー、ハードウェアキー、ブロック社側のサーバーキーのうち2つを組み合わせて資金へのアクセスや復元を行います。この仕組みにより、取引所やカストディサービスに預けっぱなしにせず、主導的にビットコインを自己管理できるようになっています。
価格はおよそ150ドルで、LedgerやTrezorといった既存ハードウェアウォレットと競合しつつも、「ビットコイン専用」「マルチシグ」「スマホ連携によるシンプルなUX」という点で差別化されています。
公式サイト:https://bitkey.world/
マイニング事業Proto:マイニングの分散化を目指す

ビットコインマイニングの分散化を目指すマイニング事業「Proto」を展開しています。
Protoのミッションは、世界中のビルダーがアクセスできるツールを提供することでマイニングを分散化し、ネットワークの透明性とレジリエンスを高めることです。これは、特定の企業や地域に集中しがちなハッシュパワーを分散させ、「マイニングの民主化」を進める取り組みと言えます。
Protoのハードウェア戦略の中核のひとつが、独自開発の3ナノメートル(3nm)ビットコインマイニングASICです。2024年に3nmチップの開発完了を発表しており、2024年7月にはマイニング大手Core Scientific向けに3nm ASICを供給する契約も結んでいます。
こうした取り組みは、長年少数のASICメーカーに集中していたマイニングハードウェア市場に対して、透明でオープンな供給網とアクセスのしやすさで競争環境を変えていく戦略でもあります。また、Protoはチップだけでなく、モジュラー型マイニングシステム「Rig」やオープンソースの運用ソフトウェア「Fleet」も開発し、ハードウェアとソフトウェアの両輪で事業展開を行い、マイニングの分散化と運用効率の向上を同時に狙っています。
2025年第3四半期の決算書では、Protoは初めて売上を計上し、事業として本格的なスタートを切りました 。ブロック社は本事業を「次の主要なエコシステム」になると決算書で述べており 、今後の成長戦略における重要な投資領域として位置づけています。
公式サイト:https://proto.xyz/
オープンソース開発支援Spiral

自社サービスの開発だけでなく、ビットコインそのものの技術改善にも注力しています。
Spiralは、ブロック社内に設置された非営利の組織で、同社の商業部門とは独立した目的で活動しています。ビットコインや関連するオープンソース技術の発展を支援するために設立されており、主要なソフトウェア成果物はオープンソースとして公開されています。
具体的に以下のような活動を行っています。
- ビットコイン開発者への助成金(グラント)提供
- Bitcoin Core を含むオープンソース開発者がフルタイムで活動できる環境を支援するプログラム。
- Lightning Development Kit(LDK)の開発
- さまざまなウォレット・アプリがLightning Networkを統合しやすくするための開発キット。
- Bitcoin Development Kit(BDK)プロジェクトの支援
- Rustベースのビットコインウォレット開発キットで、Spiralは開発者への助成などを通じてプロジェクトをサポート。
- 開発者向け教育・普及コンテンツの制作
- ビットコインやライトニング技術に関する技術解説や発信。
公式サイト:https://spiral.xyz/
まとめ・考察
ビットコインの普及活動は、新たなフェーズに入ったと感じています。個人が中心となった草の根活動がメインだった時代から、今や企業や国家といった大規模組織が主導する時代へと変化しました。
取引所の整備により誰もがアクセス可能になり、さらにETF(上場投資信託)の登場によって機関投資家までもが参入しています。「テック分野の変わり者が注目するもの」から、「世界中のプレイヤーが注視する新たな資産」へと完全にシフトしました。
しかし、単なる資産にとどまらず、ビットコインが更に日常へ浸透するために必要なことは何でしょうか。様々なアプローチがあると思いますが、そのひとつに「ビットコインを使えば儲かる」という、ビジネスとしての明確な勝算や先行事例が産まれることだと思います。
今回紹介したブロック社は、この点を押さえており、ビジネスとしてしっかりと利益を上げつつ、その収益モデル自体がビットコインの普及につながるような好循環を築いているように思います。
ビットコインが好きで経営に携わる方は、ぜひブロック社の動向を追いかけ、自社ビジネスに取り入れるヒントにしてください。 また、経営に携わっていない一般の方も、引き続き地道な普及活動(オレンジピル)を行いながら、周囲の経営者や事業担当者などにこのような先行事例を伝えていくことも重要だと思います。
ビットコインを「使う」ことで事業を成長させる。その最前線を走るブロック社の取り組みは、私たちに多くの示唆を与えてくれるはずです。
日本ビットコイン産業では、ビットコインやライトニングネットワークの事業活用に関する相談を受け付けております。
貴社ビジネスにおいてどのようにビットコインを導入できそうか、技術的な疑問についても可能な範囲でお答えさせていただきます。少しでも関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽に以下のフォームからお問い合わせください

