「無限の進歩という幻想を作り上げた近代経済は、中世の錬金術の成功したものである(ビンスヴァンガー)」※1とは、まさに今の法定通貨無限発行バブルを形容したものでしょう。
今回の記事では、私たちが住む世界が『ディストピアな監視社会』とならない可能性を上げるためには、一人ひとりがビットコインの基本的な構造を理解したほうがよいよね・・・ということを書いてみたいと思います!
※1出典:エンデの遺言: 「根源からお金を問うこと」
今の経済は錬金術の考え方をベースにしている
錬金術は、中世から近代初期にかけて広く信じられていたものです。鉛や銅などの安価な金属を金や銀などの貴金属に変換させてしまうことを目指したブームは、17-18世紀の科学革命期に衰退することとなりました。
これは時代背景も大きくて、仮にネット情報と先物市場が充実している2024年現在に錬金術は存在することができないだろうと筆者は考えています。
だって錬金術があると市場が知ったら、トレーダーは寄ってたかって「ゴールドの先物を売り、錬金術に使われる金属の先物を買い建て」るポジションを作ります。
これによってゴールドは即座に値下がりを開始し、積み上げられている先物の金買いポジションの連鎖ロスカットを引き起こします。
パニック売りで買い手不在となった先物市場では「ゴールド価格がマイナスに!」みたいなことさえ起きてしまうでしょう。
錬金技術を苦労して完成させても、作り出した人工ゴールドが高値で売れないなら、やる意味もなくなります。つまり錬金術を完成させるモチベーションは、価格発見機能の速度が秒単位の現代では存在できないのですね。
ですがスイスの経済学者であるビンスヴァンガーは、近代の経済システムが中世の錬金術の思想を継承していると主張しました。彼によれば、錬金術の「単なる金属を(価値のある)ゴールドに変える」という夢想が、現代の経済成長モデルに変形して生き続けているというのです。
以下は、この考え方をイラストにしてみたものです。
こうして図にまとめると、今の経済は通貨を発行し、強制的にインフレを引き起こすことで、何か経済価値が増えているという錯覚を世に持たせているだけ・・・ということが明確になりますね。
今の通貨システムの限界~物価が永遠に年2%で上昇していくという幻想
今の通貨制度は、モノの値段が無限に上昇していくことを前提として成り立っています。たとえば日銀や米国中央銀行などは、そろって「インフレ率2%」を目標として掲げていますね。
では仮に、西暦0年から今年の2024年まで仮に100円を年2%でインフレしていたら、今の世の中はどうなっていたのでしょう?視覚的に把握するため、グラフにしてみました。
2024年には2,500京円を超えるそうです。たとえば、仮に西暦0年当時の牛丼が390円だったなら、2024年の牛丼は9,750京円になっているような感じです。
9,750京円という金額は、2024年の世界のGDPの総額(約100兆ドル程度と仮定)の約100倍以上の金額であり、理論上では世界中のすべての上場企業を買収しても大量の資金が残ってしまいます。
わらしべ長者どころか、牛丼1杯で地球制覇が完了です。いや、さすがに無理でしょう。これだけ見ても、いまの金融政策が幻想をもとに運営されていることがわかります。
「無限の進歩という幻想を作り上げた近代経済」というビンスヴァンガーの主張は、今の通貨政策にそのまま持ち込まれているのです。
100年後の世界から今の通貨制度を振り返ってみる
ここで少し思考実験をしてみます。仮に今から100年後に、今の「通貨」が消えてなくなってしまっているとしましょう。
もともと通貨を人間が必要とした理由は、それを保有することが、過去に労働力を投下したり、新しい価値を作り上げたことを証明するための情報媒体であったからです。
このあたりは、Vol.195「26%の情報料 ~ 法定通貨からビットコインへの流出は歴史的な必然(2023年2月13日)」に詳しいので、ご興味があればご覧になってみてください。(無料で読むことができます)
では通貨制度がなくなった100年後から今を振り返ってみましょう。これはいくつかの条件を人工知能に指定して出てきたシナリオですが、秀逸でしたので引用します。
暦2124年の歴史教科書「グローバル経済史:通貨から価値交換システムへ」より抜粋:
第7章:紙幣と電子マネーの時代(20世紀後半〜21世紀前半)
20世紀後半から21世紀前半にかけて、人類は「通貨」と呼ばれる独特の価値交換システムを用いていました。この時代の通貨は主に以下の形態で存在していました:
- 紙幣と硬貨: 物理的な紙や金属で作られた価値の象徴。政府や中央銀行によって発行され、その価値は社会的な合意と信頼に基づいていました。
これらの通貨システムの特徴:
- 希少性の人工的創出: 中央機関が通貨の供給量を管理することで、意図的に希少性を作り出していました。これにより、通貨自体が価値を持つという幻想が維持されていました。
- 富の蓄積と格差: 通貨の蓄積が可能だったため、一部の個人や組織に富が集中し、社会的な格差が拡大しました。
- 投機と金融商品: 通貨そのものが取引の対象となり、複雑な金融商品が開発されました。これにより、実体経済と金融経済の乖離が進行しました。
- 国家間の経済競争: 各国が自国の通貨の価値を管理し、為替レートを通じて国際的な経済競争が行われました。
- 信用システムの発展: 通貨を基盤とした信用システム(ローンや債券など)が発達し、経済活動を活性化させる一方で、金融危機のリスクも高めました。
衰退の要因:
- 情報技術の進歩: 個人の貢献や価値をリアルタイムで測定・記録することが可能になり、通貨という媒介物の必要性が薄れました。
- 環境問題の深刻化: 無限の経済成長を前提とした通貨システムが、地球環境の持続可能性と相反することが明確になりました。
- 格差問題の顕在化: 通貨の蓄積による富の偏在が社会の安定を脅かし、新しいシステムへの移行が求められました。
- AI・自動化による労働概念の変化: 多くの労働が自動化され、「賃金のために働く」という概念が変化したことで、通貨の役割が縮小しました。
- グローバルな価値観の変化: 物質的豊かさよりも、個人の成長や社会貢献、環境との調和に価値を見出す文化が台頭しました。
現在の視点から見ると、通貨制度は人類の経済発展に大きく貢献した一方で、様々な社会問題の原因にもなっていたことがわかります。21世紀半ばから始まった「大転換」により、我々は個人の貢献と需要を直接マッチングする現在の「価値交換ネットワーク」へと移行しました。
この新しいシステムでは、各個人の能力、行動、貢献がリアルタイムで評価され、それに応じて社会的資源へのアクセス権が付与されます。通貨という抽象的な媒介物を必要とせず、より直接的で効率的な価値の交換が可能になりました。
(教科書抜粋終わり)
通貨なき後の世界を運営する主体は誰ですか?
一連のやりとりで筆者が感じた脅威は、以下の点に集約されます。
「この新しいシステムでは、各個人の能力、行動、貢献がリアルタイムで評価され、それに応じて社会的資源へのアクセス権が付与されます」
問題は、これを管理・実行する主体が誰か?という点ですね。もしも国が管理するなら、今まで以上の監視社会が到来することは容易に想像できてしまいます。