2021年6月11日 6 min read

ビットコインは希望

こんなポエムのようなタイトル、ビットコイン研究所のコラムに相応しいのか悩みましたが、先週末にマイアミで開催されたBitcoin 2021、そこでのプレゼンと議論、その後の成り行きを追う中で、繰り返し頭に浮かんだ一文なので素直に使うことにしました。

ビットコインの評価や影響予測にあたり、数学的、技術的理論、オンチェーンデータなど定量的事実が基礎になることは言うまでもありません。ただ、個人的にはビットコインコア開発者や関連事業に携わる人々、ビットコインを選んだ利用者の思いや熱量など定性的事実も、他技術との差別化に関わる重要なデータポイントであると考えています。本コラムは日本では見えにくい、この部分に焦点を当てます。

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2021年6月8日はビットコインにとって歴史的な日となりました。中米の小国エルサルバドルでビットコインを法定通貨と定める法案が議会審議を経て84票中62票という圧倒的過半数の賛成で可決、深夜に大統領が署名し新法として成立したのです。

先週のコラムで、1)サトシ・ナカモトは国家が通貨価値を操作し国民の貯蓄を横領する法定通貨制度を問題視し「貨幣と国家の分離」を目指してビットコインを開発したこと、2)貨幣とは市場で貨幣適性に基づき選出される財であることに触れました。

この貨幣論を提唱したオーストリア学派経済学の祖カール・ メンガーは「貨幣は市場原理で自然に決まる。政府はそれを追認するだけ。」と述べています。メンガーの言葉通り、サトシが開発したオープンソース貨幣は市場の自由競争を勝ち抜き、エルサルバドル政府に法定通貨として認められたのです。

ビットコインが貨幣となるには国家参入は必要条件とされていましたが、こんなに早く実現するとは、マキシと呼ばれる最も強気な人たちでさえ想定していませんでした。何はともあれ、まずは1カ国、あと194カ国です。

この件については、ビットコイン研究所でも6/7付で東さんがレビューしていますし、各種クリプトメディアも詳細に報じていますので、仕組みや運用などテクニカルな話はそちらをご参照ください。

以下では、ここに至るまでの道のり、立役者たちの思いなどをご紹介します。

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【2021年6月5日】

Bitcoin 2021の大トリを務めたのはZap CEOのJack Mallers氏。ZapはStrike, Strike Global, Strike PaydayなどLightningネットワークを使った決済アプリを開発する他、Visaと提携してビットコインをポイントバックするStrike Cardを近々発行予定です。

Strike Globalは着金に3~7日要する上、手数料が最大25%にもなる不効率な国際送金を革新する画期的アプリです。Lightningを利用することで即時着金を手数料無料で実現しました。例えば、日本からフランスへの送金は「日本円→BTC→ユーロ」というフローで、ビットコインが今の米ドルのような国際決済通貨の役割を果たします。「日本円→BTC」「BTC→ユーロ」の交換は居住国によっては課税イベントですが、Zapが行うので、アプリ利用者は税金の心配が無用で、ビットコインを使っていることすら気づかせない優れたUX設計です。

【半年前の2020年12月】

米国でStrike Global β版をリリースしたMallers氏は、次のマーケットとして欧州を狙っていましたが、CBOが「エルサルバドルだ。」と譲らなかったそうです。CBOの真意を理解できないまま、市場調査としてエルサルバドルを訪問したMallers氏ですが、すぐに状況を把握、アプリのローンチを決めました。

Mallers氏を豹変させた現地の状況とは?

  1. 1992年まで続いた内戦の後遺症に苦しむ経済
  2. 自国通貨が廃止され米ドルを法定通貨として使用
  3. 国民の70%が銀行口座を持たない
  4. 国民600万のうち、200万人以上が米国に移住、出稼ぎ
  5. GDPの22%が米国在住国民からの仕送り
  6. 仕送りの最大半分が手数料に消える不条理(送金事業者の手数料が最大25%、仕送りを受け取る送金事業者店舗の外で待ち構えるギャングが最大25%没収)

目の前に助けを必要とする人たちがいる、Strikeなら6を即座に解決可能、2の米国金融政策に翻弄される通貨の代わりにビットコインで労働対価の購買力を保持できれば、長期的には4と5も改善できると考え、Mallers氏は行動開始します。

Strikeの普及活動にとどまらず、ビットコイン循環経済圏構築を目指す社会実験にも参画。気づけば、滞在は3ヶ月を超え、Strikeはエルサルバドルでダウンロード数1位のアプリになっていました。

【さらに遡ること2019年春】

エルサルバドルのエルゾンテという海辺の村に、匿名ビットコイナーから10万BTC(当時のレートで約4億ドル)の寄付が届きます。ただし、寄付には「ビットコインを法定通貨に交換しない」という条件がつけられていました。

そこで、法定通貨を介在せずビットコインだけで日常生活が完結する「ビットコイン循環経済圏」構築を目指す「ビットコインビーチ」プロジェクトが発足します。村民はスマホにLighteningウォレットをインストールすれば、生活支援金、浜辺の掃除などのコミュニティサービス参加者への報酬などをビットコインで得られます。同時に商店に対してビットコインでの支払いを受け付けるよう促しました。並行して、ビットコイン教育、金融教育の提供、インフラ整備や観光振興策への投資も進めます。

地道な教育活動に加え、ビットコインの値上がりで村民が実利を実感できたことで、プロジェクト参加者は順調に増え、Strikeチームの参画で近隣町村にもプログラムを拡大するなど活動は加速しました。

(ビットコインビーチの日常。野菜の代金もLightning決済です。https://twitter.com/Bitcoin.../status/1360602901471768578...

【2年後、2021年春】

エルサルバドルで活動中だったMallers氏は、Strike Globalと「ビットコインビーチ」の噂を聞きつけたBukele大統領から会って話をしたいと打診されます。会合を重ね親交を深める中で、ビットコインを法定通貨にするための法案作成支援を依頼されます。

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