2025年10月、ビットコインは過去最大193億ドルの清算があったにも関わらず12%の下落に留まりました。コロナショック時の51%と比較し、清算額÷OI比率から市場の構造変化を数字で解説。市場成熟がもたらしたショック吸収力を検証します。
「ビットコインが暴落した」と耳にすると、「また何割も下がったのか」と身構えさせられますよね。でも今回は違いました。
2025年10月のビットコイン暴落では、米中貿易政策ショックをきっかけに過去最大となる約193億ドルものデリバティブ強制決済が発生しています。
清算額そのものは過去最大、つまりビットコインのポジションを強制決済された金額が、歴史上最も大きかったということですね。

上の図はビットコイン価格(黒線)と清算額(緑の棒グラフ)を示しています。2025年10月10日を含む数日間で、過去最大規模の清算が発生しています。ところが、値動き自体は極めて限定的でした。
値下がりしたと言っても、たかだか12%程度の下落です。過去のビットコインなら、数日間で4割の調整なども普通でした。
では、これまでよりもはるかに大きな金額の強制決済が発動したにも関わらず、値下がりのダメージがビットコインにさほど大きくなかった理由は、なぜなのでしょうか?
少し数字で振り返ってみましょう。
過去のフラッシュクラッシュを振り返る
まず最初に、過去に起きた主要なクラッシュを確認しましょう。

こちらは過去4回の主要なクラッシュイベントにおけるデリバティブ清算額を示しています。
今回の2025年10月の清算額(19.3億ドル)が、2位の2021年China FUD(8.5億ドル)の2倍以上であることがわかります。
例えば3番の「2020年3月12–13日 COVID-19ブラックサーズデー急落」などは、酷かったですよね。
新型コロナウイルスの感染拡大と欧米での都市封鎖懸念が強まったことで、株式・コモディティ・暗号資産すべてが一斉に売り込まれる「リスクオフ」ムードが加速しました。
米国株や原油価格の急落に連動し、追証の支払い現金需要が高まったことから、ビットコインも大量売却の対象となったのです。
当時はレバレッジ系デリバティブや先物市場で大量の強制ロスカットが発生し、売りが売りを呼ぶ連鎖的下落となりました。
当時のデリバティブ市場の脆弱性
当時はデリバティブ取引所の中でも、ビットコインを証拠金にしてBTCUSDを取引する契約が主流でした。シンプルに言えば、「ビットコイン自体を担保にして、ビットコインの取引をする」という仕組みです。
そこで買いを入れていた人たちは、含み損は発生するわ、証拠金の評価額もBTC下落で下がるわで、ダブルパンチを受けました。
さらに他の取引所と価格差が発生して裁定取引を行おうとしても、証拠金がビットコインなので着金確認に時間差が出て、その間に値下がりが連鎖的に発生し、取引所が取引停止したりもしていました。
チャートを確認してみましょう。

2020年3月12-13日の2日間で、ビットコイン価格が最大51.64%下落した様子を示しています。この急激な垂直落下、ひどくないですか?
今の市況で例えたら、昨日まで12万ドルだったビットコインが、目が覚めたら6万ドルまで下げているんですよ!とはいえ、今回もアルトコインに至っては、それ以上の下げを出したものもありますから、やはり証拠金を暗号資産で積んでいることのリスクは、この辺りに集約されてきますね。
今回の下落は本当に小さかったのか
上記を振り返った後、改めて今回の値下がりを見てみましょう。

2025年10月の下落では、約11.45%の下落にとどまりました。関税100%という衝撃的なニュースにも関わらず、値下がり幅は小さかったともいえます。
下げ幅は11%少々ですから、COVIDショックに比べたら、5分の1くらいしか下げていません。はっきり言って、2020年を経験した人なら、「ん? なんか下げたっけ?」くらいのインパクトです。
清算された金額で比較すれば、2025年が19.3億ドル、2020年が3.8億ドルです。
つまり今回は、清算された金額が5倍超になっているのに、値下がり率は5分の1になっているんです。
これは一体どういうことなのでしょうか?
よく言われる説明: ファンダメンタルズの違い
ファンダメンタルズを考えていくと、一過性か読めないイベントか、ということがよく挙げられます。
2025年10月の下落は「米中貿易政策ショック」によるものです。これは、米中が手打ちすれば解決する内容ですし、合意した方がお互いのダメージも小さく済みます。それほど長引く理由がないと市場は判断できることでした。
一方、2020年3月や2021年5月の暴落はグローバル金融危機再来懸念やエネルギー市場急変、中国当局規制といった継続的・拡散的なリスク要因によるものでした。
つまり値下がりの要因が「いつ」「どのように」収束するか、市場参加者の誰もはっきりとしたビジョンを持てなかったことが売りを拡大させたのです。
逆に今回のような短期的な政策ショックは市場参加者のリスクプレミアム上昇を誘発するものの、すぐに対策や手じまいが進むため下落幅は限定的となるということですね。
でもトレードの観点から考えるなら、数字での説明が欲しいですよね。なぜなら、客観的な評価ができる軸があるなら、次回同じことが起きても、判断に使えますからね。
ここからは、数字で説明できる理由を掘り下げていきましょう。