ビットコイン研究所レポート Vol.200(2023年3月20日)
金融機関の救済劇が話題ですね。SVBに始まりクレディスイスは超法規的な買収。さらには国境をまたぐ中銀間でのドル供給。市場のきしみを米ドルの一気注入で麻痺させてしまうFRBの動きは、今後も持続できるものなのでしょうか?
歴史は”繰り返さないが韻を踏む”といいます。FRBの起源を突き詰めれば、第一次世界大戦の戦費調達。今の法定通貨が続く限り、法定通貨の発行元に近い存在は常に救済されることになるかもしれません。
2023年からのビットコインはどうなるのか?そもそも中央銀行の本質とは?少しだけ歴史の「韻」を探ってみたいと思います。
銀行の救済が目的で作られたFRB
中央銀行と言えば米国FRBですね。こちらのサイトに書かれているFRBの設立目的は以下のとおりです。
「1907年に起きた深刻なパニックは、銀行の経営破綻を招き、脆弱な銀行システムに大打撃を与え、最終的に1913年に連邦議会が連邦準備法を作成するに至った。連邦準備制度(FRB)は当初、こうした銀行パニックに対処するために作られました。」
そう、FRBはもともと破綻する銀行を救済するために作られたのです。銀行救済目的で作られた組織ですから、SVBだろうとファーストリパブリックだろうと、救う以外の選択肢は無いとも言えます。
インフレとは貨幣価値が下がることである
- 税金
- 借金
- インフレーション
ところで国がさまざまな支払いを完了するための資金調達方法は、上の3つに集約されます。
最初の2つは「そのまんま」、最後のインフレーション(以後インフレ)が分かりづらいですね。
インフレの定義については、米国中銀のFRBサイトにこう書かれています。
「インフレとはモノやサービスの価格が時間経過とともに増加することである」
Inflation is the increase in the prices of goods and services over time.
https://www.federalreserve.gov/faqs/economy_14419.htm
IMFや主要国の中銀サイトを調べても、だいたい同じような内容が出てきます。なんだかつまらないですね。
では、FRB創立の1913年から145年ほど前に初版が発行された「ブリタニカ辞典」にインフレの定義を聞いてみます。
「経済学のインフレとは、お金の供給量・貨幣の所得・価格が集団的に増加することである。インフレは一般に、物価水準が不当に上昇することだと考えられている。」
https://www.britannica.com/topic/inflation-economics
近づきましたが、なにか遠慮を感じますね。もう筆者なりにブリタニカが言いたかった(であろう)ことを抜き出してみます。
「インフレとは、貨幣の供給量が不当に増やされることで、貨幣価値が下がることである」
これだけ頭の片隅に残しておいて、次に進んでいきましょう。
戦費調達で本領を発揮したFRB
貨幣が金と一定比率で交換できる「金本位制」は、欧州で一部の国を除き1914年で終わることとなりました。そう、第一次世界大戦ですね。
急を要する戦費調達には、国が通貨をバンバン発行する必要がある。でも「金本位制」だと金の在庫を増やす必要があるが、金は採掘量がすぐに増やせる代物ではない。
だったら国が通貨の発行基準を恣意的に決められるようにしよう、、、と投げ捨てられたのが金本位制だった訳ですね。
FRBの創立は、第一次世界大戦が始まり金本位制が終わった1年前の1913年でした。創立目的が戦費調達と、戦争債の実質的な返済をインフレで行うことであったのは、明白でしょう。
以下は「どうやってFRBが第一次世界大戦の支払いを手助けしたか」(By Mises Institute)からの抜粋です。
https://mises.org/library/how-fed-helped-pay-world-war-i
FRB創立の1914年、民間銀行は資金を借りるため、法人の在庫資産を裏付けにしたリアルビルを100%の証拠金率で提出し、FRBは発行する現金の40%をゴールドで保有していた。(つまり140%の担保保有をしていた)
米国がドイツに宣戦布告し第一次世界大戦へと参入した1917年、FRBはリアルビルの証拠金率を60%にまで下げた → 同一担保で借り入れ増大!
FRBは現金供給の証拠金として、リアルビルの代わりに政府発行債の受け入れを開始(QEの原点ここに!)
加盟銀行は政府競売で3.5%の戦争債を購入。それをFRBに担保提出すれば優遇金利の3%で資金を調達でき、差分の0.5%で稼ぐことができた(日銀トレードの原点ここに!)
1919年には政府債を担保にした現金借入が100%近くを占めるまで拡大。貨幣の供給が不当に増えたことでインフレ率は年間で13%から20%に到達(FRB創立の1914年は1%)。
実質戦費の5%は、このインフレで捻出されたものと、ミルトンフリードマンは推定している。
これらの推移から見えてくるのはFRBの目的です。
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もともとは(通貨価値の下落で)苦境に陥った銀行救済で創立されたFRB。インフレで多大な戦争借金を(実質的に)軽減したことで本領を発揮。以後FRBの目的は、米ドルの通貨発行益を最大に生かせるインフレの管理・実行となった。
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こんなところでしょう。
ちなみに米国の借入金は以下のように推移しています。
Public debt of the United States from 1990 to 2022(Statista)
2021年から2022年への変化率を電卓で確認したところ、1年間で8.8%の上昇率でした。以下の記事など振り返ってみていただけると、なかなかの味わいです。
「Vol.192 インフレーション8.0 ~ Fiat通貨が人類にバブル経済をもたらした(2023年1月25日)」
結局、今回のQEはどこまで行くの?
さてFRB創立から110年となる本年、銀行救済の量的緩和政策はどこまでいくのでしょうか?