2025年7月29日 6 min read

Vol.321:ステーブルコインの中身を見ると市場への資金流入がわかる(2025年7月29日)

Vol.321:ステーブルコインの中身を見ると市場への資金流入がわかる(2025年7月29日)

はじめに

「ステーブルコインなんて、ビットコインとは関係ない」

そんなふうに考えている方は多いのではないでしょうか。

しかし実際には、ステーブルコインの動きは暗号資産市場全体、特にビットコインの価格動向と深い関係があります。

本日のクリプトクアント社の記事において、ステーブルコインの最大派閥であるUSDT(テザー社の発行するステーブルコイン)の発行残高において、トロンがイーサリアムを抜いて圧倒的な1位になりつつあるという興味深い現象が報告されました.

時価総額で言えば、イーサリアムの方がトロンに対してはるかに大きいのに対し、USDT上での発行残高は、トロンの方が大きいという逆転現象が起きています。

この構造を知っておくことは、今後確実に存在感を増すステーブルコインの内情を知っておくのに役立つのではないかと思いましたので、今回の記事で取り上げてみたいと思います。

USDTとは何か

まず基本的な用語から整理していきましょう。

USDT(テザー)とは、「ステーブルコイン」と呼ばれる暗号資産の一種です。これをシンプルに言い換えるとイメージとしては、デジタル版の米ドルのようなものです。1USDTは常に1米ドルとほぼ同じ価値を保つように設計されており、ビットコインのように価格が大きく上下することはありません。

なぜこのようなものが必要なのでしょうか。

例えば、日本の取引所でビットコインを買いたい場合、円で直接購入できます。しかし世界中の多くの地域では、信頼できる取引所がない場合があります。そんなときに、まず現地通貨をUSDTに交換し、その後でビットコインを購入するという流れが一般的になっています。

つまりUSDTは、法定通貨(各国の政府が発行する通貨)と暗号資産の世界を結ぶ「橋」のような役割を果たしているのです。

トロンがイーサリアムを上回った驚きの事実

図1:USDT発行残高の推移(トロン vs イーサリアム)

図1は、クリプトクアント社が追跡する、トロンとイーサリアムのテザー残高の発行推移を示しています。

2024年後半から、赤いライン(トロン)が青いライン(イーサリアム)を上回っていることが確認できます。この逆転現象は、暗号資産業界で大きな話題となっています。

この変化の背景には、どのような要因があるのでしょうか。実は、その答えは「手数料」にあります。しかし、それだけではない深い理由も存在するのです。

なぜトロンが選ばれるのか

圧倒的なコストメリット

起きている現象の圧倒的な要因は、主に手数料によって説明されるかもしれません。

トロンでは個々のユーザーは最大15トランザクションまで手数料が無料となっており、これに対しイーサリアムはメインネットの手数料が他の暗号資産と比較しても高い状況にあります。

つまりUSDTを送金するだけであれば、さほどチェーンそのものの信頼度を重視する必要はなく、よりコストの安いトロンが選ばれているという状況です。

速度の圧倒的優位性

またTRC-20というトロンの送金プロトコル(ルールのようなもの)を使えば、速度自体もイーサリアムの100倍以上の速さで処理されることになります。

端的に言えば、早くて安く送れるのがトロンの強みであり、これがトロン上の1日あたりのUSDT取引数がイーサリアムを圧倒している理由と考えれば良いでしょう。

送る側の気持ちにしてみれば、送金が完了するまでの時間はわずか数秒ということになります。

リスクと利便性のバランス

この数秒の間にトロンが予告もなく崩壊してしまうというリスクがあると考えれば、イーサリアムを使う方に分があるかもしれません。

しかし現実的な問題として、短時間の取引にどのチェーンを使うかは、あまりリスクとしては認識されません。

なぜならば、トランザクションが終わってしまえばもう用済みということになるため、よりその間のコストが安い方が選ばれるというわけです。

使われ方の違いが示す興味深い傾向

図2:トロン vs イーサリアムの利用特性比較

図2は、トロンとイーサリアムにおけるUSDTネットワークの実態を示しています。

左側では取引量での圧倒的優位(日次取引数:トロン2.4Mに対してイーサリアム331K)を、右側では革命的なガス代無料モデル(全取引の75-80%がガス代無料)を示しています。

これに対してイーサリアム上で発行されているテザーは、トロンのそれよりもより長期間保有されている傾向を確認することができます。

最初の図で見ていただいた通り、トロンとイーサリアム上で発行されるテザーの残高は、イーサリアムが1位になったり、トロンが1位になったりと時々順位を入れ替えています。

つまりこの2つのチェーンがテザー上の発行を半分ずつ担っていると仮定しましょう。

これに対し実際に利用されている状況は大きく異なります。

驚くべき利用頻度の差

トロンは1日約240万件の取引を処理しているのに対し、イーサリアムは33万件にとどまっています。

このほぼ7倍にわたる差に対し、発行されているチェーン上の残高がほぼ同様であるのは興味深い限りです。

考え方によっては、長期間の保有に対してイーサリアムはトロンに対して7倍の信用度があると言えるのかもしれません。

しかしながら、圧倒的な安さと送金の速さによって、トロンは発行残高そのものも伸ばしてきており、これが強さの源泉となっています。

それ以外の通貨は2極化が進む

さて、USDTはレガシーチェーンを整理する発表を出しています。

USDT上で使われているチェーンとしては、トロンやアービトラム(イーサリアムの高速化技術)などもありますが、2025年に入ってからテザー社は5つのレガシーブロックチェーンのサービス終了を発表しています。

対象となったのは、アルゴランド、ビットコインキャッシュ、EOS、オムニの各ブロックチェーンで、これらは9月1日から召喚を停止して、残存トークンを凍結すると発表されています。

では、ここまではUSDT上の発行残高でトロンがイーサリアムを上回ってきた背景と事情について説明してきました。ではこの2つの関係は何かビットコイン市場に影響を与えるのでしょうか。

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