このところ、岸田首相の「デフレからの脱却」を耳にすることが増えてきました。モノの値段が下がるデフレとの逆は、値が上がり続ける「インフレ」です。
「政策に売りなし」というように、国が決めた路線に沿う形で資産を運用しておけば、それほどハズレを引かずにすむという考え方もあります。
そこで今回の記事では、資産形成を有利に進めるうえでも、インフレ政策に「乗っかる」ことは大事だよね・・・ということを書いてみたいと思います。
政府の・政府による・政府のためのインフレ
まず最初に、なぜどの国でも政府はインフレ政策を取ろうとするのでしょうか?
ここではオーストリア出身の経済学者、ハイエク博士の著書「貨幣の脱国営化」にヒントを求めてみたいと思います。
歴史は大部分がインフレの歴史であり、通常それらのインフレは、政府の利益のために、政府によって仕組まれたものである(筆者訳)
"History is largely a history of inflation, and usually of inflations engineered by governments and for the gain of governments."
フリードリヒ・A・ハイエク、「民間通貨と公的通貨」(1976年)
まさに「政府の・政府による・政府のためのインフレ」じゃないですか!
では、なぜインフレーションは政府の利益を拡大させるのでしょう?
その答えは、「富の再配分という隠れた税金」と「政治的な反対を受けない資金調達手段」にありそうです。これに関して、ハイエク博士の考えを紹介してみます。
① 富の再配分という隠れた税金
まず一つ目は、インフレが隠れた税金として機能するという点です。モノの値段が上がるということは、現金の価値が弱まることを意味します。
すると、預金を保有している人の購買力はさがり、同時に借金をしている人の返済負担(債務といいます)も目減りします。
預金をしている人の富が削られることから、隠れた税金と呼ばれるわけですね。
そして現金の預金者から削られた富は、債務者(借金をしている側)へと丸ごと移転されることになります。
日本最大の債務者は政府(2022年3末時点で1,241兆円)です。つまり、インフレーションを起こすことで、富が国民から政府へと再配分されることになるわけです。
ハイエク博士は、この再配分が政府による収奪の一形態であると述べています。
② 政治的な反対を受けない資金調達手段
政府は、お金を新規に発行することで、赤字のプロジェクトにも資金を提供することができます。
たとえば消費税のように誰の目にも分かりやすい増税だと、あっちこっちから政治的な反発を受けることになります。
ところが、お金の発行による資金調達では、そのような「増税への反発」を受けることがありません。
それどころか、現金価値の減少で起きるインフレーションを通じ隠れ課税を実行しつつ、経済が拡大しているという錯覚を作り出すことができます。
この結果、ハイエク博士はお金の発行権限を持つところに権力が集中すると指摘します。
中央に権利が集まるにしたがい、地方の意思決定、個人の自律性、健全な民主主義に必要なチェックアンドバランスなどは浸食されていきます。
この過程でおきるインフレは、国民にお金の価値の不安を抱かせるため、社会不安が広がり、政治的な混乱も起きやすくなります。
そこで危機の解決策を持っていると主張する独裁的なリーダーが出てくると、その主張がなし崩し的に受け入れられやすくなる可能性もあるとハイエク博士は述べています。
政府のインフレ政策に乗っかろう
さて政府がインフレを通じて、国民に経済の拡大という錯覚をみせていると同時に、富を国に再移転させることを実質的に行っている・・・というハイエク博士の主張を確認してきました。
もちろん、これがすべて正しい主張ではないかもしれません。また米国をはじめとする主要国がインフレ政策を取るなか、日本が単独で健全財政政策を取ることも、現実としては無理でしょう。
では、私たちはどのようにして自分たちの財産を守っていけばよいのでしょう?筆者なりの答えは、シンプルです。
それは、政府が自らの利益を残すために行動を起こすのであれば、政府と同じポジションを取ってしまえばよい・・・というものです。