2009年1月3日は、ビットコインが初めて動き始めた日であり、この日最初の「ブロック0」がブロックチェーンに追加されました。このブロックはGenesis Blockと呼ばれ、ビットコイナーからは特別なものとして一目置かれています。

さて、このGenesis Blockのブロック報酬 (マイニング報酬)である50BTCは、未来永劫使用不可であると言われています。サトシ自身、秘密鍵を所持していても動かすことはできません。

今回は、なぜGenesis Blockの50BTCが二度と使用できないかを自分の考察も含め解説します。

その後少し発展として、Genesis BlockのアドレスであるGenesis Addressには、2種類のアドレスと100BTC以上が存在していると言われている所以についても深堀ってみようと思います。

Genesis Blockの50BTCが動かせないと言われている理由

Genesis Blockのみマイニングが行われていない?

さっそく結論から申し上げますと、サトシ・ナカモトはGenesis Blockのみ通常のマイニングを行っていないため、報酬を得るのには不適当と考えたという説が有力です。

マイニングが行われていないとはどういうことなのか詳しく見ていきましょう。

mempool Genesis Block

通常「マイニング」では前のブロックの「ブロックハッシュ値」というものを利用して行われます。しかし、ビットコインが作られる当初Genesis Blockという概念はなく、前のブロックのブロックハッシュ値はnull (全てゼロ)でした。

サトシは何もないところから最初のブロックを作り出さなければならず、最初のブロックだけは「ハッシュ値000000000019d668...a8ce26fを最初のブロックとする」というルールをハードコードしてブロックを作成しました。

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ハードコード:コード内に直接変数や文字列を埋め込むこと

有効なProof of Work (PoW)は存在しますが、ブロック自体をハードコードにて作成したため、ブロック報酬を得るのは不適当であると考えたのかと推測されます。

どのようにしてブロック報酬を受け取らなかったのか

Genesis Blockの報酬を受け取らなかった理由は、通常のマイニングを行わずにブロックを生成したからであることを学びました。しかし、実際コインベーストランザクションは行われているので、ブロック報酬は発生しているのでは?と疑問に思われる方もいるでしょう。

コインベーストランザクションを知らない方に説明すると、マイナーはマイニングによってブロックの承認に成功した際、コインベーストランザクションという取引をブロックに追加することができます。これは、マイニングの成功報酬として自分宛てのアドレスにビットコインを送ることができるという仕組みです。

ちなみに、コインベーストランザクションはインプットが唯一存在しないトランザクションです。

実際にGenesis Blockも例外なくコインベーストランザクションは行われています。

コインベーストランザクション

ここで重要なポイントとして「トランザクション4a5e1e4baab8…eda33b」は特別扱いという点です。実際Bitcoin Core の実装では、ブロック0(Genesis Block)の コインベーストランザクションだけは「UTXOセットに追加しない」よう特別処理されています。つまり、仮に50BTCを使用したとしてもノードがUTXOとして参照することができないため、使用不可ということになります。

UTXOという概念について詳しく知りたいという方は、以下の過去記事をご参照ください

UTXOとは?ビットコイントランザクションにおける仕組みを解説
ビットコイン特有の概念UTXOを、初心者にも理解できるよう解説。ウォレット残高との関係、インプット/アウトプット、口座残高方式を採用しない理由、手数料やコインベーストランザクション、ジェネシスブロックまで丁寧に説明し、中央管理者なしで二重支払いを防ぐビットコインの核心設計を学べます。

個人的な見解ではありますが、サトシはGenesis Blockを通常のマイニングによって作成していないため、ブロック報酬を受け取るのは妥当ではないと考え、50BTCのUTXOをデータベースに登録しなかったと推測するのが妥当でしょう。

データベースに登録しなかったことに関して、意図的ではなくミスの可能性もあるという意見もあります。

Why can’t the genesis block coinbase be spent?
According to the bitcoin wiki: The first 50BTC block reward went to address 1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa, though this reward can’t be spent due to a quirk in the way that the genesis block is

Genesis Blockのアドレスが2種類存在する理由

Genesis Block(ブロック #0)のコインベーストランザクションには、送金先として以下のアドレスが記載されています。

04678afdb0fe5548271967f1a67130b7105cd6a828e
03909a67962e0ea1f61deb649f6bc3f4cef38c4f355
04e51ec112de5c384df7ba0b8d578a4c702b6bf11d5f

一般には、こちらのアドレスを 「Genesis Address」 と呼んでいます。

(再掲) コインベーストランザクション

上画像は、mempoolにあるGenesis Blockのコインベーストランザクションを示しています。「04678a…6bf11d5f」のアドレス宛に50BTCが送金されていることが見て取れると思います。

しかし、以下のサイトをご覧ください。

Blockchain.com

Genesis Address「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa 」にブロック報酬 50 BTC と合わせて 100 BTC 以上が存在していると説明されています。

これではGenesis Addressに2つの形式

  • 04678a…6bf11d5f
  • 1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa

が存在しており、50BTC存在するのか、100BTC以上存在するのか混乱を招いてしまっています。その原因は、アドレス形式(P2PK と P2PKH)の混同による誤解によるものです。以下順を追って解説していきます。

アドレス (P2PK, P2PKH)の違いによる混乱

Genesis Addressの正体は公開鍵 (P2PK)

ネットなどで「Genesis Address」と検索すると、アドレスが2種類存在している事に気がつきます。この謎を紐解く鍵は、アドレスの形式の違いです。

そこでまずは、アドレスの形式について見ていきましょう。

Genesis Blockが誕生した当初ビットコインを受け取るためのアドレスは「P2PK」という形式が存在していました。P2PKは公開鍵に直接送金する方式であったため、技術的にはアドレスであるとは言い切れません。

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P2PK :「Pay to Public Key」の略。公開鍵に直接送金する方式

サトシもこちらのP2PKである「04678a…6bf11d5f」公開鍵を用いて、コインベーストランザクションを作成しています。

つまり、Genesis Block作成当初のP2PK形式の公開鍵を「Genesis Address」として見るのが妥当で、それ以降のアドレスは別の形式のアドレスであることがわかります。

mempoolのサイト内では、アドレスに含まれる残高やトランザクションなどの情報が表示されるため詳しく見ていきましょう。

mempool Genesis Address

こちらのP2PK形式の公開鍵には、コインベーストランザクションを含め、10件送金されている履歴が確認されます。2025年10月末時点では、最新のトランザクションは2025年9月28日であることが確認でき、最近も送金があるのは興味深いですね。

これは何かというと記念に送金したり、企業が宣伝目的にGenesis Addressに寄付したものです。

こちらのブロック報酬とは別に、送金された0.01008380BTCに関してはサトシが秘密鍵を保有してさえいれば使用することができます。理由は、これらのBTCがUTXOのデータベースに存在するからにほかなりません。

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Genesis Address 04678a…6bf11d5f (P2PK)
ブロック報酬 50BTC:使用不可 (UTXOが参照できない)
記念送金 0.01008380BTC:使用可能

ビットコイン初の個人間の取引はサトシ・ナカモトがHal Finneyに送った10BTCであり、こちらもP2PKの公開鍵の方式を用いて送金されています。

Twitterの「Running bitcoin」という投稿は結構有名ですよね。

しかし、P2PKの形式は公開鍵を完全に公開しているため、現在使われているアドレス形式と比較すると、プライバシーが低く、手数料も高くなり、また安全面で劣っているという面が見られます。

そこで、Genesis Block (2009年1月3日)から約2週間程度で登場したのがP2PKHという形式のアドレスです。

アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」の正体

アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」はP2PKHという形式のアドレスで、公開鍵に対して2つのハッシュ関数を通して作成されます。

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P2PKH:「Pay to Public Key Hash」の略。公開鍵を2つのハッシュ関数に通したアドレス

こちらのアドレスは、P2PK形式に対していくつか改良が加えられています。

中でも主要なのは、アドレス内にチェックサム (誤入力検出機構)が含まれており、アドレスのタイプミスやビットコインの紛失防止に役立っています。

P2PKHアドレスは、通常33または34文字の長さを持ち (理論上は26文字まで短縮可能)、Base58形式でエンコードされアドレスの先頭が「1」から始まるのが特徴です。

こちらの作成には、公開鍵に対してSHA256とRIPEMD-160という2つのハッシュ関数を通すことで得られます。

アドレスの形式に関しては他にも存在するので以下の過去記事なども読んでみてください。

新しいアドレス形式P2TRについて
Taproot導入というビットコイン史においても大型のアップデートが目前に迫りました。 既にブロック高709,632に達すると有効化されるよう仕込まれており、あと2週間弱で導入されることになります。 Taprootにより、シュノア署名、MASTといった新しい技術が導入されることになり、プライバシー向上であったりより柔軟なスマートコントラクトをビットコインでも実装できるようになったりと、色々と応用し甲斐があると期待されています。 新しいサービスがでてきたりと皆さんの身近なところでも目に見える変化が起きるのが楽しみですね(と期待しています)。 また、シンプルに分かりやすい変化もあります。新たなアドレス形式P2TR (Pay to Taproot)が導入されますので、ブロックチェーンエクスプローラを眺めるだけでも変化に気づけるかと思います(とはいっても既存のbcから始まるアドレスとの区別はぱっと見つかず、詳細を表示するエクスプローラでだけ判別できる)。 さて、今回はこのP2TRアドレス形式についてご紹介します。

アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」は、元々の公開鍵「04678a…6bf11d5f」(Genesis Address)にハッシュ関数を適用して生成されたものです。 そのため厳密には、この2つは別物です。

アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」は、Genesis Addressよりも後に登場したアドレス形式であり、技術的には「Genesis Address」と呼ぶのは正確ではないと私は考えています。

しかし、現在P2PK形式の公開鍵へ直接送金することは技術的に困難で、高度な知識が必要です。そのため、実質的には「Genesis Addressへの送金」を目的として、アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」が使われているのが実情です。

実際の送金件数を見ると、その違いは明らかです。元の公開鍵(Genesis Address)への送金は10件のみですが、アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」には53,343件もの送金が記録されています。

mempool アドレス「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」

アドレスには54.38771691BTC存在しており、52343件のトランザクションが確認できます。

P2PK形式のアドレスのマイニング報酬とは違い、P2PKH形式に存在する約54BTCは、サトシが秘密鍵さえ所持していれば使用することができるはずです。

アドレスの形式ごとにまとめると以下の様になります。

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P2PK (0467~):Genesis Address
・50BTC:マイニング報酬 (UTXOのデータベースに存在しない) 使用不可
・約0.01BTC:使用可能

P2PKH (1A1Z~Na)
・約54BTC:使用可能

これがGenesis Addressに約100BTC存在すると誤解される理由であり、P2PKとP2PKHの形式を混同し、両方の形式の保有BTCを足し合わせてしまった結果だと考えられます。

本当のGenesis AddressはP2PK形式のサトシ・ナカモトの公開鍵である「04678a…6bf11d5f」のみだと私は思います。

まとめ:Genesis Blockはハードコード生成であり、アドレスは公開鍵そのものであった

Genesis Blockの50BTCが使用できない理由は、ウォレットの問題ではなく、サトシ・ナカモトがこのブロックを通常のマイニングではなくハードコードで作成したためです。

その結果、コインベーストランザクションは記録されているものの、このトランザクションがUTXOデータベースに追加されなかったため、ノードが参照できず使用不可能となっています。

また、よく「Genesis Addressに100BTC存在する」という誤解がありますが、これはP2PK形式の公開鍵「04678a…6bf11d5f」(約50BTC)と、第三者が作成したP2PKH形式のアドレス「1A1z…DivfNa」(約54BTC)を混同した結果です。真のGenesis AddressはP2PK形式の公開鍵のみであり、そこにある50BTCだけが永遠に使用できないビットコインなのです。

「なぜ動かないのか」という疑問の答えを追ううちに、ビットコインの設計の面白さに触れられたと思います。

Genesis Blockに眠る50BTCは、これからも変わらずビットコインの象徴として存在し続けていくでしょう。